べたべたと無遠慮に触られる感触がある。
(なんだよ…うっとおしいなぁ……)
昔やけにスキンシップの好きな女がいた。セックスの時も、それ以外の日常でも、やけにべたべたと触ってくる。とくに女は髪を触るのが好きだった。
「ジャイロの髪、やさしい色してて、好き」
女は濡れたような黒髪で、ジャイロはそれが色っぽくていいと思っていた。女はジャイロの風にのる長い髪を撫でては、くすくす笑ってまた腕や頬を触った。くすぐったくて気持ち良かったけど、めんどくさいとも思ってた。
べたべたべた…
女のように小さな手の感触だ。なんだか妙に腕あたりを触っている。うっとおしいな…。払い除けたかったが体が動かなかった。それどころか視界も真っ暗だ。鉄球、どこだ。
「ねぇなぁ、どこだよ『死体』はぁぁ〜」
触っているのはどうやらガキらしい。いかにも頭の悪そうな声が降ってくる。
なんだよクソ、ガキに触られて興奮するシュミはねぇぜ。つうか、死体ってなんだ死体って。勝手にひとを殺さねえでくれる?
そのうちグイと髪を束で掴まれ引っ張られる。その雑な手付きはあの時の女の撫で方とこれっぽっちも似ていない。
「ジャイロッ!!」
ば!と睫毛の音がするほど急激にジャイロは目を開いた。ほんのすぐ目の前に、必死な形相のジョニィがいる。なんだジョニィ、どうした。なんでそんな顔している?必死の形相のジョニィは必死に何かを叫んでいる。どうしたってんだ。口を開こうとしたとたん、とんでもない激痛が胸から響いた。
「ぐっ…!?」
自分の胸元から血が上がっている。なんだ?その血だまりにジョニィの手が沈んで、いや、めりこんでいる。ジョニィの手が、胸を貫き骨を砕いている。
「ジョニィ…ッ!?」
「ジャイロッ!!う、わああああッ!!!」
ジョニィは混乱したように喚いていた。なんでおまえがパニクってんだよ。喚きたいのはこっちだ。起きたとたんに旅の連れに腕めりこまされてんだからな…。
背後からこれまたうるさい声が聞こえた。ガキの声だ。思い出した、この声、オレの体を無遠慮に触ってきやがったヤツの。
振り向きたかったがそれどころじゃない。ジョニィの腕がさらにめりこんでくる。皮膚を裂き骨を軋ませる。痛い。噛み締めた歯からうめき声がもれた。だけど目の前のジョニィはもっと痛そうな顔で眉を歪ませ叫んでる。
やめろよ、どうした、どっか痛むのか…。苦しげな顔をされると痛みを取り除いてやりたいと思うのは、幼い頃から父親に医術の手ほどきを受けたせいだろうか。ジョニィは泣いてる。つらそうだ。
どうやらジョニィを泣かせてるのは自分らしい。泣きたいのはこっちだぜ。ジョニィの腕がめりこむ。おかしな音がなる。血が飛ぶ。頭のワルいガキの声がする。死体を渡せとかなんとか。そんなもん知ったこっちゃねえが、てめえはオレがぶちのめす。それで鉄球、オレの鉄球はどこだ。