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さよならの作法 r.p


 プロシュートはホルマジオが少し苦手だったとおもう。嫌いなのではない。ホルマジオは気持ちのいい男で、力みすぎず熱すぎず冷めすぎず、いつだって適度な対応で人の輪になじむ、プロシュートとはまったくちがうタイプの兄貴分だった。世間からはじかれた、突拍子もないキャラクターばかりのこのチームで、一番一般社会に近い感覚をもっていて、そのくせギャングの仕事も申し分なくこなす。何かと衝突の多いメンバーの間で緩衝剤となることも多かった。いなければいないで気にならないし、いたらいたで気にならない。そうゆう存在は、ふだん空気のように意識されることは少ないが、いなくなってようやくその貴重さがわかる。

 ホルマジオの死体を回収してきたのはギアッチョだ。今は奥の部屋の裸のパイプベッドに寝かされている。
 明日には埋葬しなければかなり臭うだろう。ガソリンに焼かれたらしい死体の損壊状態はかなり激しい。ギアッチョが抱き上げた時、その体はまるで焼きたてのピッツァのように熱かったという。ホワイトアルバムで冷却しながら車に載せたほどだ。
 遺体を寝かせてある部屋から出ると、リビングのソファにリゾットが座っていた。背中を沈ませ、片肘をついて宙を見つめている。兄貴、とまだ涙のにじむ声をあげたペッシに、先に行ってろと指示して、プロシュートはソファに歩み寄った。
「リゾット」
 首をひねってリゾットが、振り向いてくる。いつもの表情に見えた。ソルベやジェラートの死体を葬った時、地面に掘った暗く深い穴、あれに似た眼差し。
「イルーゾォはもう出発した。俺らも行く」
「ああ」
 電話は、とリゾットが言うのでプロシュートはスーツのポケットを軽く叩いた。
「奴らの足どりをつかんだら、連絡をいれる。メローネはバイクで待機させといてくれ。ギアッチョはどうせ車を出すつもりだろ?」
「そう言っていた。俺も今日中にここを出る。もうここには戻ってくるなよ」
 プロシュートはロフト構造になっている2階フロアを見上げた。そこにはそれぞれに与えられた私室がある。共用のリビングダイニングとちがって、完全にそれぞれの趣味で彩られたその部屋の中は、個人の私物であふれ返っている。もちろんプロシュートの部屋もだ。
 なにひとつ片付けはできていない。だが突然の引っ越しや事務所替えなど当然のことで今まで何度もあったし、絶対に失くしたくないものなんて暗殺者には不必要だ。
「おまえが前にイイっつってたレザーのジャケット、あれ着ていってもいいぜ」
 目線をリゾットに戻すと、その口元がふっと笑った。今日初めて見る笑みだ。そして今日最後に見る笑みになるだろう。
「馬鹿言うな。あんな一張羅、もったいなくて着れねぇ。それに俺じゃあサイズが合わないだろう。気持ちだけありがたく受け取っておくよ」
 リゾットがまっすぐにプロシュートを見る。死者を弔う穴に似た、リゾットらしい真摯さで。
「グラッツェ、プロシュート」
 プロシュートはまっすぐにリゾットを見返す。多くの者が、この男のそばを横切って去っていった。ついさっき、ホルマジオも通り過ぎていった。いつもの、斜にかまえた笑みを浮かべ、軽薄な足どりで、しょうがねぇなぁと呟きながら。死者の列は、リゾットが若い頃に失った幼い命にまでさかのぼる。家族、仲間、同僚、敵、無関係の一般人。多くの死者が、列をなしてリゾットのそばを通り過ぎていく。
「あとはたのんだぜ」
 プロシュートはリゾットとの付き合いが、ホルマジオの次に長い。だがこんな言葉をこの男に向かって吐くのは初めてだった。自分でも驚いた。リゾットも驚いている。
「めずらしいな。おまえほどの者が、俺に何をたのむって?」
「…ホルマジオを」
 埋葬に付き合ってやりたいが、時間はない。ひとりでは穴を掘るのも大変だろう。メローネとギアッチョを手伝わせればいいが、どっちにしろ三人とも穴を掘るのに適したスタンドじゃない。ソルベとジェラートの時は、グレイトフルデッドで地面をえぐった。これほど弔いに向いたスタンドの名前もないと、メローネが言っていた。
「じゃあな」
「ああ」
 軽く手をあげて、プロシュートはリゾットに背を向けた。親しい者同士ならごく自然にする挨拶のハグやキスも、そこにはない。別れを意味するからだ。ギアッチョなんかは絶対にやらねえと忌み嫌っている。プロシュートも、このチームではメローネとしかしたことがない。だから必要ない。
 部屋を出ながら、そういえば、とプロシュートは思い返した。ホルマジオとは一度交わしたことがある。初めてプロシュートがこのチームに来た時だ。よそよそしいというより、まるで他人に興味なんかないといった他の面子とちがい、ホルマジオは片頬を上げて笑いかけ、両手を広げ、プロシュートを迎えた。ようこそ、俺らのチームへ。歓迎するぜ。そうしてごく自然と挨拶のキスを寄越した。
「これが最初で最後だ。さよならの挨拶は一回きり、でも最初にやっておけば、いつまでも別れはこねえし、逆にいつ別れがきたって、平気だろ?」
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