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幸運のめぐる星 m.f(護衛と暗殺)


「クソッ!今日はツイてねぇ…」
 スロットに拳をガンッ!と叩きつけてミスタは立ち上がった。調子がよかったのは最初だけで、コインはすでに手元に一枚たりとも残ってない。
 毒づきながら台を離れかけたところで、すぐ横に男が立っているのに気づいた。
「これ、あんたのじゃねえの?」
「おおッ!?」
 男が差し出してきたのは一枚のコインだ。ミスタは思わず飛びついていた。
「そこに転がってたぜ」
「おおッ、俺のだ!ありがとな!助かったぜェ~~さっき最後の一枚終わっちまったとこだったんだ。これで勝てば今日の飲み代が稼げる!」
「おーよかったな。幸運を」
 男に笑顔で手を振って、ミスタは渡されたコインを意気揚々とスロットに投入した。正直本当に自分のコインかどうかは知らないが、せっかく舞い降りたチャンスを逃すわけにはいかない。
 スタートレバーを押すと絵柄が回転を始める。3列のリールが回るのを睨みつけながら、ミスタは祈りに似た切実な思いを込めて、そっと一番左側の停止ボタンに指をそえた。
(今日は本当ならさっきので終わってたはずだ…それが知らねえやつに知らねえコインを渡された時点で、俺にツキが回ってきた…このコインと一緒にツキがやってきたんだ。勝つ、必ず勝つ。絶対に勝つッ!!)




 カジノの一画にあるバールで男の姿を見つけて、ミスタは大声をあげ手を振りながら近づいた。
「おーい!あんた!さっきの!」
「ん?」
 赤い坊主頭の男が振り向いて、ああ、という顔をする。
「スロットどうだった?」
「あの一枚で大勝ち!あんたのおかげだ!まじで助かったぜ、一杯奢らせてくれよ」
「ヒュー〜そいつぁ景気いいね」
 上機嫌で口笛を吹き、男はカウンターのとなりの席をミスタにあけてくれる。ミスタは遠慮なく腰かけながら、バーテンダーに声をかける。
「グラッパをたのむ。あんたは?」
「ああ、じゃあ俺も同じのを」
 バーテンダーがうなずくのを横目に、ミスタは改めて男のほうに体を向け、手を差し出した。
「グイードだ」
「おう。マウロだ」
「よろしくゥ〜」
 握手を交わすうちに、バーテンダーがグラッパのグラスを2つ差し出してきた。受け取って、1つをマウロに手渡す。
「ありがたくいただくぜ」
「もちろん。あんたのおかげで飲める酒だからな」
 互いにニヤリと笑って一気にあおる。度数の高いアルコールがのどに心地よく滑っていく。
「くぅーッ!勝って飲む酒はうめェな!」
「おごってもらう酒もうまいぜェ~まさしくさっきの一杯で引き上げるとこだったんだ。手持ちがないもんでなァ〜」
「お互いに救世主になったってわけだな」
「まったくだ」
 もう一度乾杯して、グラスをあおる。それからすぐさま、ミスタは自分の分とマウロの分をもう一杯注文した。
「悪ぃな」
「遠慮すんなって。なんせあの一枚で赤7揃いのビッグボーナス突入だぜ。やっぱりツキが回ってきてたんだ。あんたは?勝ったのか?」
「勝ってたらもっと景気よく飲んでるんだがなァ~今日はダメだ。あんたに譲っちまったなァ」
 言ってることは皮肉だが、マウロの顔に暗いものはまったくない。どうにも気持ちのいい男だ。見た目はいかついのに、表情の明るさは近所の兄ちゃんみたいな親しさがある。
 しばらく会話と酒を楽しんでいると、カジノのVIPルームに続く扉が開いて慌ただしく数人のスーツ姿の男が出てきた。その中に見知った顔を見つけ、ミスタは腰を浮かす。
「おい、レオ!何かあったか?」
「ああ、あんたブチャラティんとこの」
 カジノの副支配人のレオは中年太りした巨体を揺らしながらミスタの方に足を向けてくる。
 顔面を蒼白にしたレオは、バーテンダーに「水を」と声をかけてから、ミスタに低い声で話しかける。
「ロベルトが誘拐された」
「なんだって?」
 ロベルトはこのカジノの支配人だ。オーナーには表社会に顔のきく金融業の男がついているが、ロベルトは元々ギャングで実質カジノを仕切っている。ミスタの属する『パッショーネ』はこのロベルトという男から収入の一部を上納させている。
「今夜は定例の幹部会議だったんだが、ロベルトだけが姿を見せなかった。警備員に様子を見に行かせたら、部屋はもぬけのからだと」
「誘拐されたって根拠は?」
「執務机の床に血がついてた。少量だが…それに、暴れたみたいで机の上の書類が散乱していた。ペンのインクも床に落ちていたし…」
「確かに妙だな。わかった、ブチャラティに連絡してみよう」
「たのむ」
 レオは渡された水を一気に飲み干して、部下たちを引き連れカジノの人混みにまぎれていった。
 ミスタはすぐさま携帯でブチャラティに電話をかけたが、何度コールしても出ない。仕方なく一度電話を切った。いつものチームの溜まり場に行ってみるしかない。
「仕事か?」
 マウロは、さっきと変わらない様子でグラスを傾け、笑っている。
「ああ…ここのカジノ、俺の上司のシマだからな。トラブルがあれば世話してやんなくちゃあなんねーんだ」
「へえ……ブチャラティっていやぁこのへん仕切ってるギャングだな。あんたもその一味か」
「まーな」
 しゃべりながら携帯でブチャラティへのメールを打っていたミスタは、ふと顔をあげた。横にいるマウロは、やはり笑みを浮かべたままグラッパを飲み干している。
「あんた、さっきのコイン…」
「ん?なんだ?」
「……いや、なんでもねえ」
 悪いが俺はこれで、とミスタが立ち上がると、マウロはグラスを軽くあげて返した。
「おごってくれて助かった」
「ああ、こっちこそ。じゃあまたな」
「Chao」
 ミスタがカジノを出て道路でタクシーを捕まえようとしていた時に、ちょうどブチャラティから電話が返ってきた。レオの話を一通り伝えると、ブチャラティに、今からそっちに向かうからお前はそこにいろと指示される。




 ホルマジオが鏡をコンコンと叩くと、便所の光景を映していた鏡面に、ひとりの男の姿が現れる。
「よぉ。どんな様子だ?」
「ロベルトは予定通りこれから会議に向かうところらしい。警備がミーティングルームに集中するから今はザルになってる。行くか?」
「おう。たのむぜぇ~」
 イルーゾォが「ホルマジオを許可する」と呟くと、ホルマジオの体はするりと鏡の中に入り込む。それからイルーゾォに先導され、左右反転した便所から出てカジノの広間を通り抜け、VIPルームへ向かう。
 ロベルトの執務室につくと、イルーゾォは部屋のすみを指差した。
「鏡台がある。あそこから出たらいい」
「了解ーっと。じゃあまたあとでな」
 手を軽くあげ、ホルマジオは鏡台の鏡から『外の世界』へ出た。誰かに電話しているロベルトの後ろ姿が目の前にある。
 そこからの行動は手慣れたものだった。
「リトルフィートッ!」
 ホルマジオのスタンドがロベルトに飛びかかると同時、ロベルトの肩から鮮血が散った。リトルフィートに切り裂かれたロベルトは、狼狽しながら、どんどん小さくなっていく。暴れるロベルトの腕が机上のインクつぼを倒す。
 すっかり小さくなってしまったロベルトを指先でつまんで、瓶の中に閉じ込める。フタを閉じた時、カランと音がした。見ると、床に一枚のコインが落ちている。
「…こいつが落としたのか?」
 拾い上げてみるがごく普通のコインだ。なぜこんなものをロベルトがわざわざ持っていたのか。 
 ホルマジオが鏡台の前に立つと、鏡面に再びイルーゾォが現れる。瓶詰めにしたロベルトを渡したあと、なぜか妙な顔をされた。
「あんたカジノでギャンブルやってたのか?」
「あ?なんで?」
 イルーゾォが無言で指差す先には、ホルマジオの手におさまったコインがある。
「ああ、落ちてたから拾っただけだ。これでも仕事はマジメにこなすって評判なんだぜェ~ホルマジオさんはよォ~〜」
「そうかよ」
 適当な返事を寄越すとともにイルーゾォは瓶を持って鏡の向こうへ引っ込んだ。
 これでホルマジオの任務は完了した。下調べはイルーゾォがしてくれていたし、思った以上にラクな仕事だった。せっかくカジノに来てるんだし、久々に打っていきたいところだが、あいにく手持ちの資金がない。
「コレ使って一発当てるかァ〜?」
 床に落ちていたコインを指でピンと跳ね上げ掴む。執務室を抜け、廊下を歩きながら、コインを指の間に通したりして手遊ぶ。ホルマジオの特技のひとつはコインマジックだ。プロとは言わないが飲み屋で女の子に喜ばれるレベルには十分達している。メローネにコイン消失マジックを教えたのもホルマジオだ。
「でもなんとなく縁起悪ィよなぁ〜…やっぱギャンブルは自分の金でやらねえとよォ」
 コインを握りしめた拳をポケットに突っ込み、カジノのホールに出る。あちこちのテーブルで老若男女が笑い合い騙し合っている。




 カウンターに座る赤い坊主頭にデジャビュを覚える。だがミスタはそこにマウロがいることを知っていた。もし姿を見せたら俺に連絡をくれと、バーテンダーに頼んでいたからだ。
「マウロ」
 肩越しに振り向いた男は、ミスタを見て少し目を見開いた。
「グイード」
「よォ〜〜横いいか?」
 もちろんとうなずくマウロの隣の席に腰を下ろす。バーテンダーに酒を注文してからマウロの方に向くと、煙草を揺らしながらマウロは人好きのする笑みを口元に刻んでいた。
「奇遇じゃあねーか、またスロット打ちに来たのか?」
「それがよォ、あんまりギャンブルで金を擦るなって注意されててよ…残念ながら今日は遊べそうにねぇーんだよ」
「注意って例の上司にか?」
「ああ。俺はガキの使いじゃねーんだぜ?金の使い方ぐらい自分で決めるっつぅーのォ〜」
「わかるぜェー俺んとこも金遣いに口うるせー奴がいやがるんだ。ま、薄給だからしょおがねぇけどよ」
「で、打たずに酒だけ飲んでるのか?」
「ここにいるだけで空気は味わえるからな。たしかに熱中してる連中見てるとよォ、ギャンブルって恐ろしいなーって思うしな」
 ミスタは笑いながらグラスを傾ける。バーから見渡せるカジノホールには、今日も多くの客であふれ返っている。
「客足は減ってねえみてえだな。支配人が替わったから経営に響かねーかと気になってたんだが」
「ロベルトは見つかんねぇままか」
「ああ。今は副支配人だったレオが代理してる。ロベルトは売上金を誤摩化してたみたいでよ、裏金作ってウチの組織に渡す金を少なくしてたんだ。だから組織としては、むしろロベルトがいなくなって利益になってる。…上からそう言われたらしいんだがな、ブチャラティは」
「へえ〜」
 マウロは変わらず笑みのままだ。唇から長く太く紫煙を吐く。
「ロベルトは、コインを偽造してたんだ。特殊な加工がしてあって、それを使えば必ずスロットで当たり目が出る仕組みになってる。それを顧客に使わせて、儲けた金のいくらかを横流しさせてた。結局はその結託していた客のひとりから、組織に情報のリークがあったってわけだ」
「なるほどね……それで、なんでそんな話を俺にするんだ?」
「この前あんたに渡されたあのコイン。あれはロベルトの偽造コインじゃあねーかと思ってる」
「そうなのか?」
 ミスタが体ごとマウロの方を向くと、マウロはおどけて肩をすくめて見せる。ミスタは、じっくりとマウロの目を見据えた。
「こっからは俺の推測だけどよォ……推測だから怒んないでくれよ?」
 見据えたまま、ニッと笑う。
「あんたはあの日、どうやってかわからねーがロベルトを誘拐して、そのとき偶然あのコインを手に入れた。でもあんたはあのコインの正体を知らなかった。だから俺に渡した。適当に、そのへんで拾ったとか言ってな。あんたは多分、ロベルトを誘拐することだけが仕事だったんだ。あんたは、あの野郎が何をやらかしたのかも知らない、コインのことも知らない。たぶんロベルトが誘拐されてその後どうなったのかも、知らない」
「おもしれぇ意見だなァ〜」
 マウロは喉で低く笑う。
「それで、おめーは俺を捕まえて『組織』にでも引き渡すとか?」
「いや、今言ったことは本当に推測でしかねぇ。証拠がなんにもねえからな。コインだって、俺が使っちまったから、もう確かめようがねぇ。…それに、結果的にロベルトは組織の裏切りモンだった。あんたは組織の敵じゃあねーし、むしろ組織に雇われたかなんかして、ロベルトを誘拐したと考えた方が筋が通る気がする」
「なかなか的を得た意見だなァ、感心したぜ」 
「ま、結局のところ俺がどうこうできる話じゃねえ…俺はケーサツじゃあねえし。それに、あんたのおかげでツキが回ってきたのは事実だからな」
 ミスタはカウンターに酒代を置いて、立ち上がった。最後にもう一度、マウロの顔を見る。
「妙な出会い方しちまったが、あんたはいけ好かねえ野郎じゃあねーし、また一緒に飲みながら、上司の愚痴の言い合いでもしてえと思ってるぜ。また会えるか?」
「そうだなァ〜〜おめーとは悪くねぇ縁みてえだからな。ツキが回ってんなら、また会うこともあるだろうよ」
 マウロが拳を突き出してきたので、ミスタも拳をゴツッと突き合わせた。それからミスタはもう振り返らなかった。あまりカジノに長居するとまたブチャラティに注意されそうだ。
 その後、ミスタがマウロと出会うことはなかった。カジノの付近に来ればあの赤い頭を探したが、そういう男が来たという話も聞かなかった。
 ロベルトの死体は、ミスタがマウロと会った最後の日に、ロベルトの執務室だった部屋で発見された。鏡台の下に無造作に転がされた手足のそばには、割れたガラス瓶が転がっていた。
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