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ルーヴルの思い出 r.p.m.g


 国民的な祝日だった。とはいえギャングには祝日もくそもない。
「フランス語が読めるやつはいるか?」
 リゾットの問いかけにまずギアッチョとイルーゾォがいち早くそっぽを向いて、ついでリゾットの掲げたカードをぼんやり見上げていたペッシがそろっと視線を宙に漂わし、最終的にホルマジオがしょおおがねぇなぁ〜とぼやきながら立ち上がった。
「読めるのか?」
「南フランスの女と付き合ってたことがある」
「それで?」
「愛の言葉なら何度だってフランス語でささやいてやったもんだぜ?」
 文面を勝手に覗き込もうとするホルマジオから、「ロマンス小説じゃねぇんだ」とリゾットはカードを取り上げた。
「仕事か?」
「のようだ」
「ソレ、読めねーと困るものなのか?」
 ギアッチョも寄ってきて興味津々にカードを覗き込む。流暢な筆記体に高級そうな箔押し。かろうじて読める単語は、『Louvre』。
「読めた方が助かる」
「プロシュートは?」
「兄貴は聞き取れはするけど読めねぇと思いますぜ」
「こうゆう時こそメローネだろ」
「そういえばいないな。どこだ?」
「さぁ〜上で寝てるんじゃあねーか?」
 思い思いに好きなことを言い放って、もう興味がうせたのか、それぞれ元の位置に戻っていく。ギアッチョだけがリゾットについてきた。各自の個室があてられている上の階に上がっていく。
「パーティーの招待状かよ?」
「そうだといいが、それを知るために読めるやつを探してる」
「あんたほんと語学はからっきしだな」
 ギアッチョは比較的リゾットになついている。彼がこのチームに来た時、当初のお目付役はプロシュートだった。次の日にはその役回りはリゾットへと移った。プロシュートとギアッチョは人格的にもスタンド能力的にも相性が史上最悪だった。かわりにメローネがプロシュートの教育下に移った。
 そんな経緯があったせいか、いまだにプロシュートとギアッチョは言葉を交わせば口喧嘩がデッドヒートする。かといって仲が悪いというわけでもない。気まぐれに二人で行動してることもある。まぁ、仕事に支障がなければ、リゾットとしては介入するほどのことじゃない。
 逆にメローネは、はじめからプロシュートになついていたようだ。メローネは一見ではわかりにくいが、非常にややこしい性格をしている。思わぬところで癇癪を起こしたり、と思ったら異様なローテンションにハマってまったく口をきかなくなったりする。その次の瞬間にはハイテンションで歌ってたりする。
 メローネの、感情の波が読みにくい、そういった不規則な起伏が、神経質なイルーゾォの精神をかき乱し、直情的なギアッチョを苛立たせたが、その点プロシュートは、彼らしい大雑把さとわかりやすい主義主張で、他の誰に対するものとも変わらない対応をメローネに与え、それがおそらくメローネを安心させた。

 後ろをついてくるギアッチョと他愛もない会話を投げあいながら、廊下を曲がってすぐのドアをノックする。即座に返事があった。
「入るぞ」
 ドアを開けると、ベッドの上でパソコンに向かい合うメローネ、それから窓際のスツールに腰かけるプロシュートの姿があった。手には大きな美術書をもっている。
「やっぱり二人まとめていやがったか」
 リゾットの脇を通って部屋の中に入ったギアッチョは、からかうような声をあげた。メローネが後ろに手をついて体を伸ばしながらギアッチョを見やる。
「プロシュートにたのまれてCD焼いてんだよ。おまえこそ相変わらずリゾットのケツ追いかけ回してやがる」
「テメーはいっぺん死んでみるか?」
「いいけどやるなら外にしよう。せっかく65%までトーストしたデータがパーになる。おまえのスタンドははた迷惑なんだ」
「テメーにだけは言われたくねーぜこの野郎がァーッ!!」
 瞬間ホワイトアルバムをまとってメローネに突進しかけたギアッチョの襟首を、リゾットが猫の子にするように掴んで止めた。身長差の関係でギアッチョは浮いた足をジタバタと暴れさせる。
「邪魔して悪いな。これが読めるか?」
「ほんとに邪魔でしかねぇな」
 憎まれ口をたたきながら、プロシュートが読んでいた美術書を肩にかついで近付いてくる。ギアッチョを掴んだままのリゾットが掲げるカードを一通り眺め、肩をすくめた。
「パーティーへの招待状ってわけじゃあなさそうだな」
「やっぱりか」
「招待状にはちがいないんじゃない。見せて」
 パソコンの前に座ったままのメローネに、カードを手渡す。
「わかるか?」
 聞くと、メローネはカードをリゾットに突き返してきた。
「よかったな、リゾット。フランスで休暇だ」
「なに?」
「なんだって!?」
 思わぬ単語をメローネが発するものだから、プロシュートとギアッチョが同時に反応した。
「オイオイオイどうゆうことだ?おまえだけが休暇か?フランスで?納得できねーぞしっかり説明しろ」
「休み欲しい休み欲しい旅行いきてぇエッフェル塔!」
 まとめて詰め寄ってくるプロシュートとギアッチョを見て、リゾットはなんでコイツらはこんなところで似てるんだとしみじみ思う。結局この二人は、よく似てるから相性が悪いし、仲が悪くない。
 プロシュートはくるりと頭をまわしてメローネを見た。
「カードになんて書いてあったんだ?メローネ」
「あんたのその、手に持ってるソレだよ」
 全員の目が、プロシュートの手の中の美術書に向けられた。分厚い表紙には、金字で『Louvre』と打たれている。
「ルーヴル?」
「今そこで世界的な美術品のオークションが開かれてる。そのカードはリゾット、あんたをオークションに招待するものだ。あくまでも『オークション客』として。そこにパッショーネと敵対するフランスの組織の幹部が顔を出す予定なんだとさ。現れるかもしれないし、現れないかもしれない。現れたら始末しろ。そうゆうこと」
「なんだそりゃ、がっつり仕事じゃねーか!」
「半分休暇みたいなもんだろ?」
 噛みつくギアッチョにメローネは口角を上げた。はかられた。というか、踊らされた。
「まぎらわしい言い方してんじゃねーぞクソが!」
「来るかどーかわからない野郎ども見張りながら美術館見学か、退屈ないい仕事だなリゾット、おめでとう」
 肩をぽんと叩いて形ばかりの慰めを寄越してきたプロシュートの腕を、リゾットはがっちり掴んでみた。
「覚えてるかプロシュート。3年前のルーヴルで」
「なんのことだ?忘れたね」
「なんだなんだ?」
「ふたりだけの秘密の思い出かよ」
 そんなおもしろそうな話題にギアッチョとメローネが食いつかないはずもない。無駄に目を輝かせて迫ってくるふたりに、プロシュートは心底うっとおしそうに眉をひそめる。しかしリゾットが腕をつかんだままなので、身動きもとれない。
「おまえが忘れるはずもないな。その美術書も、あの時に買ったものなんだから」
「なんの話だよリゾット、教えろよ」
「3年前にも任務でルーヴルへ行ったことがある。特殊な任務だった。『ミロのヴィーナス』の『暗殺』だ」
「なんだそりゃ?『ミロのヴィーナス』って、あれだろ、両腕のないオバサンの白い彫刻だろ?」
「上半身裸の。あと後ろから見たら半ケツ」
 ギアッチョの美的感覚とメローネの鑑賞視点はさておき、リゾットは鷹揚にうなずく。
「つまり彫刻を奪ってバラバラに解体しろという指令だった。あまり知られていないが、あの彫刻はいくつかのパーツに分かれて出来上がってる。当時そのつなぎ目に、時価数億の宝石が埋め込まれてるという噂があった。みんなこぞって『ミロのヴィーナス』を手に入れたがった。が、ルーヴルの警備は世界屈指だ。そこでプロシュートが客と警備員の動きを一気に封じ、俺がセキュリティーをぜんぶ破る作戦をとった」
「作戦は滞りなく実行された。俺とリゾットだから当然だ、ヘマなんざしねぇ。だが想定外のことがひとつだけあった。警備員にひとり、若い女がいたんだ」
「『老化』の効きが悪かったんだな」
「立派なヘマじゃねーか」
「けどどうにかして任務は遂行したんだろ?じゃなきゃアンタらが今生きてここにいるはずない。どうしたんだ?」
「プロシュートが女警備員を口説いた」
「はああ?」
 当然のように言い放ったリゾットに、ギアッチョが信じられないとゆうような声をあげる。プロシュートの方はもう言い逃れする気もないのか、リゾットに腕をつかまれたまま煙草を吸いだす始末だ。
「俺は芸術家のはしくれで、イタリアから来た、『ミロのヴィーナス』像を一目見て恋に堕ちちまった、ってな。いけないことだとはわかっている、けして叶わぬ恋だということも、けれど貴方にこうして見つかったのも運命だったんだ、どうかこの愚かな男のはかない恋心を見逃してはくれないか、マドモアゼル」
「マジかよ!それを素面で言えるなんてもはや才能だぜ!」
「なんで女を殺さなかったんだ?『メタリカ』で一撃だろ」
「しようとする前にすでにこいつが口説きにかかってた。実際、女は生かしたままにした方が便利だったしな。なんでも協力してくれた。本物のヴィーナス像を持ち出し、偽者のレプリカを運び入れるところまで」
「だがおかげでそのあと女に尾けまわされてさんざんだったぜ。もうあんなメンドーな事はしねえ」
「その女はまだルーヴルの警備員を?」
「やってるかもしれねぇから俺は行かねぇ」
「馬鹿いってんじゃあねーぜ、そりゃテメエ、ちゃんと迎えにいってやれよ!テメエのこと、まだ待ってるかもしんねーんだろ?『ミロのヴィーナス』みたくよぉ」
「俺もそう思う。責任をとるべきだ、プロシュート」
「おめー普段はそんなこと言わねぇくせに、俺を道連れにしようとするのはやめろ!」
「いいじゃねーの、フランスで休暇、ついでに女と一発ヤって帰ってくれば。うらやましいね、最高のバケーションだ」
 メローネまでリゾット側にまわって、もはやこの場にプロシュートの味方はいない。冗談じゃねえとプロシュートは煙草を吐き捨てた。ルーヴルのことだって、今日このメローネの部屋にきて書棚に並んだ美術書を見るまで、思い出しもしなかったのだ。3年前など時効だろう。女がもし、まだルーヴルにいたとしても、プロシュートのことなんて忘れてるに決まってる。
「いいや、絶対覚えてる」
「少なくとも俺がその女なら忘れないよアンタのこと」
「なんせ彫刻に勃起したヘンタイだもんなぁ、逆に忘れちまいてぇぐらい記憶に刻まれてるだろーぜ」
 やはりこの場にプロシュートの味方はいない。

atogaki

実は地味に続いてるドビュッシーシリーズ
・ルーヴルの思い出 Souvenir du Louvre
・感傷的な風景(言うに言われぬ静けさ)Paysage sentimental

ヒントを得たものたち
・いやな天気だから、もう森に行かないの諸相 Quelques aspects de "Nous n'irons plus au bois"
・白と黒で Blanc et noir
・組曲「子供の領分 Childres's corner」

Re:atogaki

  • べいた 〔管理人〕
  • 2010-04-21 15:15

血液型性格分析まとめ
関係図や相関図もまとめたいところ
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