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円卓の騎士 i.ps.m.g


 先々週はイルーゾォの番で結果は最悪だった。イルーゾォが選択したのはよく行くいつもの店だったが、リニューアルのせいで閉店休業になっていて、仕方なく向かいのオープンしたばかりの店に入った。
「あそこのチーズは最悪だったな。ローマにできたアメリカ産のファーストフード店かと思ったよ。なんだっけ、あのギアッチョが買ってきた」
「マクドナルド」
「それ」
 メローネは両手でパチンと鳴らした指を回答者のペッシに向けた。それにペッシのとなりのギアッチョが噛み付く。
「人差し指を向けんじゃねえッ!それにな、マクドナルドがまずいんじゃあなくて、オメーの選んだメニューが最悪だっただけだ。McItalyにいってみろ、オメー好みの100%イタリア食材がショーケースに並んでるぜ」
「マックのチーズと肉はいただけなかったけど、マックバールのエスプレッソはいける味だった」
「エスプレッソはおまえのあの店が一番だったよイルーゾォ。あそこが使えねえならミラノは世界一シケた土地だ」
 度の入ってないメガネを机に落とすメローネを見返し、肩をすくめ、イルーゾォはギアッチョにメニューを回した。受けとったギアッチョは2秒で注文を決め、ペッシに回す。ペッシはメニューを立てたままウェイターを呼んだ。
「俺イカと野菜の墨煮。みんなは?」
「なんだそれ?うまいのか?」
「俺はミートローフ。おいメローネ、オメーもう注文決まったっつってただろ。さっさと言えよッ!」
「俺リコッタチーズとじゃがいもの堅焼き、あとガス抜きの水」
「ここはペッシ推薦の店なんだからペッシが食うのが一番うまいもんに決まってるだろ」
「うまいよ、墨煮。でもメローネ、このあと学校に戻るんだろ?口の中真っ黒になっちまうぜ」
「おまえだって病院の受付事務に戻るんだろうペッシ。口の中真っ黒でいいのかよ」
「勤務中はマスクしてるから大丈夫」
 結局メローネは子羊の脳みその蒸し焼きを注文した。無駄なやりとりだったがいつものことなので気にしては負けだ。だからイルーゾォは気にせず話を続けた。
「まだ大学いってるのか。卒業式はいつなんだよ」
「卒業式の経験がないくせに言うじゃねえか」
「俺もない」
「あんなもん別にいいもんじゃねえよ。つーかイルーゾォはまだしもおめーもねえのかペッシ」
「俺はまだしもってなんだよ。2人して!」
「リタイア組。おまえとプロシュート」
「あとリゾットも」
「リゾットは家の都合でスクール行くのをやめたんだろ」
「詳しいね」
「昼飯おごった見返りに情報というご褒美」
「買収かよ。趣味ワリィ」
「卒業式には招待してやるよイルーゾォ。招待状はいくらで買う?」
 イルーゾォが投げたくしゃくしゃの紙ナプキンは、標的のメローネには当たらず、皿を運んできたウェイターの足下に転がった。
「さぁ来た!本日はこのペッシおすすめ、チブレイーノの自慢ディッシュだ」
「ヒュー♪」
「待ってました!」
 月に何度か、不定期に開かれるチームの年少組の昼食会。年少組の4人はパッショーネの仕事がない時は、それぞれ職に就いてるかスクールに通っている。仕事や授業の合間をみつけ、集まってはそれとなく情報交換の場となっている。
 彼らのチームは全員で集まるということがほとんどないが、逆にこうした小さな集まりはわりと頻繁だ。ホルマジオ主催の、煙草とティータイムを楽しもうの会しかり。
 この昼食会では、毎回店を決める担当を順番にまわすシステムで、今日はペッシの番だった。店選びは担当にまかせ、他のメンバーは担当の選んだ店に文句をつけないのが決まり事だが、おおむねペッシの選定には定評がある。うまくて安い店ならペッシとホルマジオが詳しい。
「さすがフィレンツェ老舗名店の系列だけあるな。肉の厚みがちがうぜ」
「気のせいか水もうまい」
「それはほんとに気のせいだと思うけど」
「ギアッチョ、オリーブオイルとって」
「ハウスワイン飲みてえ。デキャンタ注文しようぜ」
「赤」
「俺、白がいい」
「白…いや、赤…赤…うーん」
「意見を一致させる努力をみせろよオメーらッ!」
 ギアッチョがウェイターを呼んで、結局それぞれグラスで注文した。ギアッチョも昼食が終わればスクールに戻るが、飲酒をとくに気にする様子もない。
「この前、プロシュートに連れられてプラダ行ったんだけど、店のなかでタダでシャンパン飲めたぜ」
「マジ?」
「ほんとにタダか?税金と称して徴収されてんじゃあねーのか」
「そうだとしても買ったのはプロシュートだけだから俺は関係ない」
「ほんとにタダで飲めるよ。俺も兄貴といっしょに行った時、プラダの店員に迎えられて、番号札取らなくても奥に入れてもらえたぜ」
「あの野郎がお得意様なだけじゃねーか」
「昼間からシャンパン飲んで、中古車でも買えそうな値段のシャツ選び。どうやったらそんなリッチな生活送れるんだ?俺も5年後はああなってんのか?」
「できるんじゃねえの。同じリタイア組だし」
 イルーゾォから再び飛んできた紙ナプキンのボールを避けて、メローネは運ばれてきたワイングラスを手に取った。ペッシとギアッチョは軽くグラスを鳴らす。
「Alla salute」
「安くてリッチな食卓に」
「ペッシに」
 2人をならってメローネとイルーゾォもグラスを掲げる。おのおのグラスをあおったあと、ペッシがイルーゾォの方を向いた。
「兄貴みたいになれなくても、十分リッチだぜ、俺たち」
「そうだな…アーサー王にはなれないけど、円卓には座れてるしな」
 おそらくアーサー王の円卓よりも豪勢な食事会だ。料理はどうかしれないが、彼らは自分たち以上に最高の仕事仲間をしらないのだから。
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