メローネが眼鏡をかけている。
じっと見ていると奴は視線に気付いて、緑とオレンジの混ざりあった物体を突き出してきた。
「いる?マンゴーオレンジとメロンソーダのミックス」
「……」
あいにくイタリアンジェラートに興味のないリゾットは黙ったまま首を横に振った。それよりも眼鏡だ。
メローネはいつものマスクをつけていない。かわりに眼鏡をかけている。赤いフレームの眼鏡。残念ながらリゾットにはそれに見覚えがありすぎた。
「ブハッ!メローネおめーよぉ、なにギアッチョの眼鏡かけてんだ?」
リゾットの背後を通りすがったプロシュートも、やはりメローネのそれを見過ごすわけがなかった。
(やっぱりか)リゾットは胸の内でうなずいたが、これ以上突っ込むと事を荒立てる気がして仕方なかった。ので、スルーしておくことにした。
だがやはりというかさすがというか、こうゆうことをスルーするはずないのがプロシュートという男だった。
「どうしたんだよ?ギアッチョの野郎から奪ってきたのか?」
「ひみつぅ〜」
「ふーん?しかしおまえ、似合わねぇな!」
プロシュートはリゾットの座るソファの背にもたれかかって、遠慮ない笑い声をあげている。向かいに座るメローネは緑とオレンジの混ざり合ったものをべろりとなめて、今度はかけていた眼鏡を外してこっちに突き出してきた。
「かけてみろよ」
話の流れからいえば当然プロシュートがその眼鏡をかけてみるものだと思った。だがリゾットの背後から伸ばされた両手は、赤いフレームをつまんでそのまま、眼鏡はなぜかリゾットの顔面におさまった。なぜだ。
「ブッ!ちょ、リーダーそれやばいリーダーやばいあはははは」
「おいちょっとこっち向けよ…ブッハ!!ぶははははッ!リゾットよぉ、おまえ、ぶふっ、ぶははははは」
別に自分でも似合うとは思ってなかったが、ここまで爆笑されるとさすがに腹が立つ。が、それよりもリゾットには気になることがあった。
「度が入ってないな」
「あはははは、はは、そうだよ、ひひひ」
「はあ?そうなのか?」
リゾットの背後から眼鏡のフレームをつかんで取り上げたプロシュートは、眼鏡を掲げてレンズ越しに天井や部屋の中を見回してみる。
「ほんとだ、入ってねえ。伊達メガネかよ」
「たしかに本当に目が悪ければ、ホワイトアルバムをまとってあんなスピードでは滑走できないな」
「いつも思ってたんだけどよ、コレかけたままホワイトアルバムまとって、顔面窮屈じゃねえのかな。すっげえ眼鏡の跡がつきそうじゃねえ?顔に」
「それ本人にゆってみろよ、プロシュート。地中海がカチ割れてモーゼが現れんじゃあねえかなと思うぐらいブチギレるぜ、あいつ」
メローネは長い髪をざらりとかき上げて楽しげに笑んでいる。目元を覆っていない姿をリゾットは久しぶりに見た気がした。いつも着けているあのマスクは、別になにを隠すというわけでもないらしい。本人いわく、オシャレ。ということはギアッチョの眼鏡も、同じことなんだろう。
「それで、当のギアッチョはどこに?」
「さぁ…昨日つかまえた女に産ませたベイビィフェイスがあいつを分解したとこまでは見てたけど、その先は知らない。眼鏡だけ拾って帰ってきちゃった」
「あいつが死んだらあいつの分の仕事おめーがやれよ」
ギアッチョの眼鏡もメローネのマスクも、意味するところは同じだとリゾットは解釈している。
自分を飾ることは自分を守ることでもある。