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純潔の炎 p.m


 仕事の終わったあとの一服は最高だというが、メローネもおおむね賛成する。メローネが煙草を吸うのは、仕事直後の、少しの疲労感と、待ち合わせの時間を持て余した時だけだ。だから機会は少ない。体に匂いが染みつくこともない。
 バイクにまたがって久しぶりの煙草を味わっていると、夜道から聞き慣れた音が近付いてくる。石畳を叩く革靴。これはうまくいった時の音だ。
「首尾は?」
「ディモールトベネ、だ。おまえ風にいうとな」
 カチッと闇に火花が散る。が、何度すってもいつものように火が灯らない。舌打ちが聞こえた。
「メローネ。火をくれ」
「あいにく俺もガス切れ」
「いい、こっちでもらう」
 夜の闇から溶け出してきたプロシュートが、唇にくわえた一本をメローネの吸う煙草に寄せて、強く吸う。ジジ。触れあった先端がひときわ明るくなり、そして離れる。メローネから火を移しとったプロシュートは、一吸いしてため息みたいに紫煙を吐いた。うまそうだ。
「なんだ?」
「え?」
「顔が笑ってる」
「マジ?」
 思わずメローネは口元に手をやった。無意識に笑っていたらしい。我ながら気持ち悪い。
「いや……久しぶりだなと思って。煙草吸うの」
「常習じゃねぇからな、おまえ」
「仕事終わりに一本だけだ。…ほんと、ひさしぶり」
 その言葉が何を意味するか、わからないプロシュートではなかった。ある時期を境に、暗殺の任務は確実に減っている。干されている、といった方が正しい。
 あの時から。ソルベとジェラートがボスの素性について調べだし、捕まって殺されたあの時から、ボスにとってプロシュートらのチームは、いつ飼い主の手を噛むか知れない危険な飼い犬となった。ボスからの要求はより高く、難解になった。同時に任務が激減した。当然、渡される報酬も。
 飼い殺されている。
 それはチームのメンバー全員が感じていることだった。首輪をはめられ、今にも窒息しそうなほど。
「実際、これ以上報酬が減ったらやってけねぇな。食い扶持減らすために、首切られたりして」
「ありえねぇ。俺らがチームから抜ける時は死ぬ時だけだ」
「物理的に、首を切られた時とか?」
「メローネ」
「だって、考えてもみろよ、プロシュート」
 バイクのシートに沿って背を反らせ、メローネは夜空に向かって煙を吐いた。
「たとえばあんたやホルマジオなら、こんな仕事やってなくったって、カタギの世界でやってけるんだろうさ。だけど他の連中を見てみなよ。ギアッチョはブチギレのガキで社会じゃ相手にされないし、イルーゾォは自分の世界から出てこれない。ペッシは自分の面倒もみれないマンモーニ。リゾットはなんとかやってけそうだけど、あれはダメだ、暗殺者として出来上がりすぎてる。それに俺。俺なんか即刻逮捕で一生刑務所か、数年たってからブチ込まれてロープで首くくられるかどっちかだ。悲惨だね」
「言っただろ。組織が俺たちを野放しにするなんてありえない。だからそんなのはありえねー未来だ」
「じゃあプロシュート、もしボスが死んで、組織が解体したら、その後、あんたどうするんだ?」
 メローネが視線を向けると、プロシュートはまだ短くもなってない煙草を捨てて、靴で踏みにじった。かすかな火種が石畳みに押し付けられ、消える。
「さぁな…俺はべつに組織を乗っ取ろうとも思わねぇし、ボスになりたいわけでもない。これまで通りにやってくんだろうよ」
「ギャングを続ける?」
「おまえは足を洗いたいのか?メローネ」
「それこそありえない。自分では天職だとおもってるぜ」
 メローネは短くなった煙草を、地面に落とした。石畳の隙間に吸い込まれて、炎は消える。辺りはまた、暗い藍色の闇に包まれる。
「金が欲しいな。そう思わないか、プロシュート。金さえありゃあなんだって買えるし、なんだって食える」
「てめえがそう思うならそうすりゃあいいだろうが」
「俺はボスを裏切らないかって話をしてるんだぜ」
 プロシュートはゆっくりと視線をメローネに繰った。よく研がれたナイフでじっくり腹を割くようだった。
「色気のねぇ誘い文句だ」
「ソルベとジェラートがさ、先走った行動しやがって、余計に俺らの立場が悪くなっただろうがって最初は思ってたけど、あいつらが何か仕出かす前から、俺らチームはボスにとっちゃあ厄介モンだったんだ。ボスが行動に出る前に、あいつらは動いただけだ。そう思った。今だって徐々に、首輪を締めあげられてる。いつか俺らはボスに殺されるんだろう。任務で死ぬのも嫌だけど、ボスに殺されるのはもっとダサい」
「ちがいねえ」
 メローネが立てた指でちょいちょいと手招く。言われなくてもプロシュートは石畳を削る鋭さでメローネに近寄った。
 バイクのボディに身を寄せる。メローネは、プロシュートの耳に内緒話をするように言葉を吹き込む。
「あんたはノッてくれると思ってた」
「ボスだろうがなんだろうが、俺を殺そうと向かってくる奴は全員殺すさ」
「たのもしい。あんたはそうでなくっちゃあ。…あのマンモーニはどうする?」
「自分で決めるだろう。あいつに任す」
「足手まといになんないかって、言ってんだけど」
「ペッシが?足手まとい?」
 プロシュートは鼻で笑った。横目でメローネを見る。
「せいぜいテメーの心配してろ。優秀なベイビィを育てとくんだな」
「あんたかリーダーが血液をくれたら最高にベネなんだけどなぁ」
 バイクにまたがったままメローネが両頬にキスを寄越してきたので、プロシュートは手を背にまわしてゆるい抱擁を返した。メローネがこんな風に妙に親しげな仕草をしたがる時は、本心からの感謝を表す時だとプロシュートは知っている。
「チャオ」
 片手を軽く振ってメローネはバイクを発進させた。闇夜に消えていく左右ふぞろいの淡い髪色を見送って、プロシュートは新しい煙草をくわえた。が、火がないのを忘れていた。舌打ちひとつ、ジッポをしまって煙草はくわえたままメローネとは逆方向に歩き出す。
 ボスを裏切るか裏切らないかは、プロシュートにとってそこまで重要ではない。おそらくチームのリーダーという立場にあるリゾットなら、部下をもつ以上、それは重大なる決断となるのだろうが、プロシュートには関係のないことだ。
 なぜならプロシュートは自らの意志でこの道を選び取り、いつだって地面を削るような鋭さで歩いてきた、ボスへの忠誠でも信仰でもない、プロシュートの胸にはいつだってたしかな炎があって、その炎が照らしだすひとつの方角だけを目指して走った。そう、たったひとつなのだ、いつだって。そのたったひとつの向いている方角がこの道なのだから、これ以外はありえない。メローネは、ホルマジオやプロシュートなら、カタギの世界でもやっていけるなどと言っていたが、そんなことは世界が一巡したってありえないだろう。胸に灯る炎が照らす暗がりの一本道、これがプロシュートの選ぶただひとつの道であり、プロシュートはプロシュートのまま死ぬのだ。
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