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うつくしい影 b.p(護衛と暗殺)


 慌ただしく店を出ていったミスタがシーフードピッツァを残していったので、ブチャラティは多少満腹ながらも2枚目のピッツァに手を伸ばしかけたところだった。
 ガシャアアンッ!!!
 店の入り口で派手な騒音、女の悲鳴。目をやると、頭からガラス窓に突っ込んでぶっ倒れる男と、それを囲む3人の男、膝まずく女。
「お願い、やめて!どうしたら許してくれるの!」
「だからよォォ~~~さっきから言ってんだろォ?金だよ金、金さえ払ってくれりゃあ見逃してやるっつってんじゃあねーか。こんな良心的な和解はないぜェ?なにが不満だっつぅーんだ」
「だから、金は明日に渡すって…!」
「オイオイオイ今日つったよなァ、俺は今日持ってこいって確かにゆったよなァ!?ええ?俺は待たされるのが何よりも嫌いなんだ。時間を守れねーやつは約束を守れねーやつだ。そんな馬鹿は死ね」
 ブチャラティはピッツァを皿に置きなおして、ため息を吐いた。こんな場面、このネアポリスじゃ日常茶飯事で、そのへんに掃いて捨てるほど転がってる。警察が腐りきってるこの街じゃ、身を守るには自分でなんとかするしかない。女と、ぶっ倒れてる男にはその力が足りなかっただけの話だ。
 店内の他の客たちは、黙ってその騒ぎを見てるか無関心かのどちらか。この街で生きていくには正しい判断だった。店員さえも息をのんでただオロオロするばかりだ。
 3人の男のひとりが拳銃を手に握ったあたりで、ブチャラティは立ち上がった。さっき立ち寄ったブティックに忘れ物をしたと取りにいったミスタが、もうそろそろ戻ってくる頃だろう。あの単純で直情的な男が事をややこしくする前に、片をつけたほうが良さそうだ。
「おい」
「ああ?」
 拳銃をもった男がブチャラティの方に振り向いた。まだ若いが肌も歯もボロボロだ。あきらかに麻薬常習者と知れる。
「こんなところでそんなもの振り回すな。派手なパフォーマンスで人目を引きたいんなら、大道芸人になって道ばたで玉乗りでもしておけ」
「ああ~~?なんだァオメーはよォ?」
 銃口をふらふら揺らしながら、男がいやらしく唇をゆがめる。笑顔のつもりらしい。
「あいにく俺はギャングでなァ、大道芸人なんて器用な真似はできそうにもねーや…ほら、銃の扱いもこの通り荒くてなァ?」
 銃口が、はっきりとブチャラティの顔面に向けられた。次の瞬間、『スティッキーフィンガーズ』の繰り出した拳が、男の顔面に叩き込まれる、はずだった。
 パンパンパンッ
 あまりに軽い発砲音と同時、男の体は横に吹っ飛んで、カフェのテーブルに突っ込み盛大に騒音を鳴らした。客たちは悲鳴をあげて逃げ出す。吹っ飛んだ男はもう立ち上がることはなく、頭に3つの赤黒い穴をあけてただ血をだくだくと流している。
(なに…!?)
 あたりを素早く見回したブチャラティの目に、一人の男の姿が飛び込んできた。
 男はまるで、芸術家の彫りだした彫像のように、超然としてそこに立っていた。スーツに包まれた体からしなやかに伸びる手に、拳銃が握られている。銃口から立ち上る硝煙が、今ギャングの男に撃ち込まれた銃弾はそこから放たれたものだと語っていた。
 異様な存在感をもつ男だった。ただその場にいるだけで目を奪ってしまう人種というのが、この世には希少ながら存在するのだ。まさにその象徴のような男だった。
 スーツの男は、ブチャラティに目もくれず、硬直している残り2人のギャングに歩み寄った。いや、歩み寄るなんて生易しいものじゃなく、2tトラックで轢き殺すぐらいの勢いだった。
「オメーらもギャングか」
「はぁ?え、ええ?」
「そいつは自分がギャングと言っていただろ。オメーらもギャングなのかと聞いてる」
 その言葉に、固まっていた男たちも自分の矜持を持ち直したようだ。突然勢いづいて叫び返した。
「そうだ!俺らは『パッショーネ』のモンだ!」
「知らねぇはずもねえだろう、『パッショーネ』の名を!テメエ俺たちの仲間にこんなことしやがって、ただじゃおかねえ、ブッ殺してやるッ!!!」
「なおさら虫酸が走るぜ。オイおめーらにひとつ教えてやる。ギャングってのはなぁ…」
 なんの前触れもなく、会話の続きのように自然に、スーツの男が引き金をひく。パンパンッ!威勢良く叫んでいたギャングのひとりが、脳天に穴を2つ開けて後ろ向きにひっくり返った。残りのひとりが声を上げる。
「『ブッ殺す』とかそうゆう言葉は使わねーんだ…ズブの素人が使う言葉なんだよそんなもんはな…俺には完了した行動についての言葉しか存在しない。『ブッ殺した』、だ」
 そして拳銃の銃口はすっと左に5センチずらされ、正確に残りのひとりに向けられた。その動作は優雅でさえあった。なにかの戯曲のようでもあった。それはスーツの男の端正な見た目と、あまりにも現実離れした光景のせいだろう。
 あとはもう、その銃口から銃弾が放たれ幕が引かれるのを待つばかりの筋書き。
「待てッ!」
 だがブチャラティはその演劇に割って入った。とたんにスーツの男が、ちらと視線を投げつけてくる。強く輝くグリーンだ。その瞳の宿す透徹した冷たさはどちらかというとロシアの血を思わせる。
「もう十分だろう。そいつを殺す必要があるか?」
「なにか勘違いしてるみてーだから言っておくが」
 スーツ姿の男は顔だけブチャラティに向けたまま、パンッ!最後の発砲音を響かせた。ギャングの残り一人が、頭に赤黒い穴をのぞかせてぶっ倒れた。
 とたんに止まっていた時間が戻ったように、悲鳴と叫び声が店内に充満した。
 我先にと扉を開け放って逃げ惑う人の群れの中、ブチャラティとスーツ姿の男だけが、向かい合って立っている。
 男は拳銃を背中のベルトに挟み込みながら、ブチャラティの顔を射抜くように見る。おそらく男にとっては、単に視線を投げかけてるだけだが、その瞳に宿る強すぎる光が、まるで暗闇をほと走る雷光のような印象を突きつける。
「俺はおめーを助けたわけでも女を守ったわけでもない。これが『仕事』だからな……『仕事』を『片付けた』だけだ」




「ヘイヘイヘ~イ、ブチャラティ~また派手にやってんじゃあねーか」
 吹っ飛んだ男の死体で割れたガラス窓から、ミスタが店内に入り込んで来た。手には革の財布が握られている。どこにでも物を置いて忘れるのはミスタの悪い癖だ。物にあまり執着がないらしい。
 もろもろ破壊された店内で唯一突っ立っていたブチャラティは、くるりとミスタの方を向いて、かぶりを振る。
「俺がやったんじゃあない」
「へえ?じゃあギャング同士の抗争に巻き込まれたか?このくたばってる連中って『パッショーネ』の奴らじゃねーの?顔見たことあるぜ」
 ミスタが靴のつま先で死んだ男の頭を転がす。脳天を3発撃たれて死んだ男。なにひとつ無駄も残虐さも愉悦もなく、ただスーパーのレジ店員が商品のバーコードを読み取る無機質さで成された『仕事』。
「…俺もよくはわからない。こいつらが店内で暴れだして拳銃を手にした瞬間、止めに入ろうとした俺を無視して、別の男がこいつらを撃った。きっちり6発。リボルバーだ。一切の無駄なく殺した。おそらく口ぶりからして、その男もギャングだろう」
「どんな野郎だったんだ?」
「スーツ姿で、身なりはよかった。下っ端とかじゃあない。下っ端ならあんな殺しは無理だ。だが幹部にしては年若いし、俺も見たことのない奴だった。それに、こいつらを撃ったのを『仕事』と」
「ブチャラティ、そいつぁ……組織の『暗殺者』じゃねーか?」
 ブチャラティがミスタに視線をやると、ミスタはズボンのベルトに突っ込んだ愛用のリボルバーを取り出した。見るともなく、その周囲に弾丸に似た形のスタンドが姿を現す。『セックスピストルズ』。
「俺はあんたに導かれて組織に入団した時、暗殺専門のチームにってゆう話もあった。俺の能力はこれ以上なく『暗殺向き』だからな……直接は会わなかったが、『暗殺チーム』には10人弱のメンバーがいて、問答無用で人を殺すことだけを生業にしてるって聞いたぜ。ターゲットは組織の内外を問わずな」
「…こいつらは、組織の『粛清』か」
「確実なターゲットは、この3発撃たれてる男だったんだろうがな…一番最初に撃たれたんだろ?こいつ。あとの2人はオマケで殺されたのかもな…つるんでたんなら恨みやらをもたれるとメンドーだからな。一緒に片付けたんだろう」
 ミスタはスタンドを引っ込め、拳銃もしまった。「さっさとずらかろう、ケーサツが来ちまうぜ」とブチャラティを促す。
 ブチャラティはもう一度、殺された3人の男の死体を見やった。たった6発の銃弾。整えられたダークスーツ。雷光に似たグリーンの瞳。放たれた鋭い言葉。残像にしては、強烈すぎる。
「『暗殺』専門のチームか……そのチームにとっちゃあ、組織の中にも外にも敵しかいないんだろうな」
「因果な存在さ。重宝されるわけじゃあないし、いざとなったら切り捨てられる。ああゆう連中はロクな死に方できないだろうぜ。もちろんロクな生き方もな」
 それはそうだろう。ブチャラティも心底同意する。
 だがあのスーツ姿の男、あの男の、まっすぐ立った姿勢やなにがしかの誇りで仕立てあげられた身なり、それにこれ以上ない意志の強靭さをたたえた言葉と行動が、ブチャラティの目にはしっかりと焼き付けられている。あの男の残影を思い出すたび、少なくとも彼の生き方は彼自身の意志に満ちたものだったのだろうと思うのだ。たとえロクな死に方じゃなくても。ロクな生き方じゃなくても。
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