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声を聞かせて j.g


 ジャイロの体にのっかって、胸にぴたりと耳をつける。どくどく鼓動の音がする。よかった。ジョニィはそのままの体勢で目をつむった。よかった。涙がでそうなほどにうれしかった。
 遺体はホット・パンツに持ち去られた。でもなぜか、脊椎の一部だけがぼくに残されていた。ホット・パンツ、敵か味方かわからない奴だ。ジャイロの国の紋章をもっていた。謎が多い。ジャイロが目を覚ましたら聞いてみなければならない。ジャイロの国のこと、黄金長方形のこと、体にどこか異変はないか、どこか、動かなかったりしていないか。
 川の中一面に血が広がって、ジャイロの手足がバラバラに浮かんでいるのを見た時、絶望と恐怖でパニックになった。体の一部を失うというのは恐ろしいことだ。この動かない両足を何度呪ったか。
 ジャイロの腕を持ち上げてみる。ちゃんとつながってる。意識がないからひどく重く感じた。よかった。これでジャイロはまた鉄球を振るえる。
 とにかくここから離れて休息をとろう。ジョニィが顔をあげるとヴァルキリーが歩み寄ってきていた。首筋を撫でてやる。本当に賢い馬だ。
 ヴァルキリーは鼻先を主人の額や頬にすり寄せている。ジャイロはうめき声をあげるが、まだ目を覚ます気配はない。こうやって見るとジャイロは意外に幼い顔をしている。睫毛が濡れて濃い色を落としてる。
 ジャイロの体を引き上げて、自分の背にもたせかけて上体を起こさせる。水を含んだ長い髪が肩に背中に落ちかかってくる。ヴァルキリーに助けてもらって馬の背に乗せた。
 この先は雪深い道程になる。少しでも体力を温存してる方がいい。
 スローダンサーにまたがって、横に並ぶヴァルキリーを見た。ジャイロ、早く目を覚ましてくれ。君の意見が聞きたい。君の声が早く聞きたいんだ。

夜空のコールテール j.g


 父上は声を荒げるということが一度もなかった。たった一度もだ。怒ってるときも、静かに淡々と諭す口調で、なのにその目だけは底冷えする怒りを宿していて、それが余計に怖かった。父上はオレになにも課さなかった。いい成績をとれとも競争で一位になれとも言わなかった。ただオレにツェペリ一族のすべてを継ぐことだけを課した。父上を尊敬してるし愛してる。だけど父上のすべてに納得することはできない。

 月のない夜だ。馬を走らせるのは危険と判断して早々にテントを張った。ヴァルキリーのブラッシングも終えて寝床にねそべっている。カードを三枚投げた。ジョニィが山から三枚投げ渡してくる。
「ちっ、今日はカスだな」
「君、最近ツキがないね、ジャイロ」
「やめろそういうこと言うのは。余計ツキが回ってこなくなる」
 今日はどうも勝てそうな気がしない。勝利の感覚ってやつが来ない。あーくそ、今日も夜番決定か。
「なぁ話しようぜ」
「何を?もう勝負あきらめたのかい」
「ガキの頃なにして遊んでた?」
「毎日乗馬場いって馬を見ていたよ」
「おまえさんとこ代々馬乗りだっけか」
「ああ。父は調教師で兄はジョッキーだった」
「へぇー」
 ジョニィもその血を受け継いだってわけだ。確かにジョニィの乗馬技術やコースを読む力はすごい。ツェペリは馬乗りの家系ではなかったが、ジャイロも幼い頃からよく馬に触れ遊んでいた。
「オレも馬に乗ってばっかだったな。鉄球の技術や医術の勉強しだしてからはちょっと馬から離れてたけど」
「君に鉄球を教えたのはオヤジさん?どんな人?」
「厳しい人だ。それにめちゃくちゃ怖ぇ」
「へぇ、厳しく育てられたから反動でそんな風になっちゃったわけか」
「うるせェな。おまえのオヤジさんはどんな人だったんだよ」
「父さんは…厳しかったな、やっぱり。とくにぼくには容赦なかった」
 もうこの話はおしまいにしよう、とジョニィがカードをジャイロに見せた。フルハウスだ。ジャイロの手札はツーペア。全然ダメ。マントの上からもう一枚毛布をかぶって、ジャイロはテントの外に出た。

 焚き火にくべた木をかき混ぜる。真っ赤な火の粉が、凍える夜空に散った。
 ここらへんはクーガーも野盗も出ないと聞くが、用心にこしたことはない。しかもジャイロ達を狙ってるのはもっと厄介なスタンド使い共だ。あいつらに襲撃されたら正直レースどころじゃなくなる。
 ジャイロは口元まで毛布をかぶって、夜空を見上げた。一面に海岸の砂粒みたいに星が輝いている。そびえる奇怪な岩山の黒い影が、まるで何かの神話のように地平線に連なる。祖国じゃ見られない光景だ。こんな場所であんな相棒と共に過ごすなんて、思いもしなかった。
 ジョニィはあまり、家族の話をしたがらない。受け答えはするが、すぐに会話が続かなくなる。
 誰にだってしゃべりたくないことぐらいある。ジャイロだって秘密にしてることがあった。生涯それだけは誰ひとりにさえ明かさないと決めている。

 父上が本当に怒っている時、その名を呼ぶのだ。ユリウス。おまえはツェペリ家の長子。家族を守り一族を守ることがおまえの成すべきこと。勝利も栄誉も必要ない。わかっているな。私がおまえに望むのはそれだけだ、ユリウス。
 父上の言葉は呪いのようにオレを戒める。受け継ぐ者、対応者、つまりはそうゆうことなのだろう。勝負の時に後手にまわる。染み付いた性(さが)らしかった。
 でもこのレースの道中で、それでは勝てない敵に何人も遭遇した。ジョニィは「飢え」が必要だと言った。オレだけが行く道、光り輝く道。このレースの先に、それが見えるのかもしれない。
 テントの中からジョニィのくしゃみが聞こえた。毛布から出てる部分の肌に夜の空気が触れ、刺すように寒い。早く朝になれ。エスプレッソを飲もう。ジョニィもきっと欲しがる。オレのいれるイタリアンコーヒーは格別なんだ。この大地に散らばる遺体にだって、できれば飲ましてやりてぇもんだ。

転がる思想 j.g


 べたべたと無遠慮に触られる感触がある。
(なんだよ…うっとおしいなぁ……)
 昔やけにスキンシップの好きな女がいた。セックスの時も、それ以外の日常でも、やけにべたべたと触ってくる。とくに女は髪を触るのが好きだった。
「ジャイロの髪、やさしい色してて、好き」
 女は濡れたような黒髪で、ジャイロはそれが色っぽくていいと思っていた。女はジャイロの風にのる長い髪を撫でては、くすくす笑ってまた腕や頬を触った。くすぐったくて気持ち良かったけど、めんどくさいとも思ってた。
 べたべたべた…
 女のように小さな手の感触だ。なんだか妙に腕あたりを触っている。うっとおしいな…。払い除けたかったが体が動かなかった。それどころか視界も真っ暗だ。鉄球、どこだ。
「ねぇなぁ、どこだよ『死体』はぁぁ〜」
 触っているのはどうやらガキらしい。いかにも頭の悪そうな声が降ってくる。
 なんだよクソ、ガキに触られて興奮するシュミはねぇぜ。つうか、死体ってなんだ死体って。勝手にひとを殺さねえでくれる?
 そのうちグイと髪を束で掴まれ引っ張られる。その雑な手付きはあの時の女の撫で方とこれっぽっちも似ていない。
「ジャイロッ!!」
 ば!と睫毛の音がするほど急激にジャイロは目を開いた。ほんのすぐ目の前に、必死な形相のジョニィがいる。なんだジョニィ、どうした。なんでそんな顔している?必死の形相のジョニィは必死に何かを叫んでいる。どうしたってんだ。口を開こうとしたとたん、とんでもない激痛が胸から響いた。
「ぐっ…!?」
 自分の胸元から血が上がっている。なんだ?その血だまりにジョニィの手が沈んで、いや、めりこんでいる。ジョニィの手が、胸を貫き骨を砕いている。
「ジョニィ…ッ!?」
「ジャイロッ!!う、わああああッ!!!」
 ジョニィは混乱したように喚いていた。なんでおまえがパニクってんだよ。喚きたいのはこっちだ。起きたとたんに旅の連れに腕めりこまされてんだからな…。
 背後からこれまたうるさい声が聞こえた。ガキの声だ。思い出した、この声、オレの体を無遠慮に触ってきやがったヤツの。
 振り向きたかったがそれどころじゃない。ジョニィの腕がさらにめりこんでくる。皮膚を裂き骨を軋ませる。痛い。噛み締めた歯からうめき声がもれた。だけど目の前のジョニィはもっと痛そうな顔で眉を歪ませ叫んでる。
 やめろよ、どうした、どっか痛むのか…。苦しげな顔をされると痛みを取り除いてやりたいと思うのは、幼い頃から父親に医術の手ほどきを受けたせいだろうか。ジョニィは泣いてる。つらそうだ。
 どうやらジョニィを泣かせてるのは自分らしい。泣きたいのはこっちだぜ。ジョニィの腕がめりこむ。おかしな音がなる。血が飛ぶ。頭のワルいガキの声がする。死体を渡せとかなんとか。そんなもん知ったこっちゃねえが、てめえはオレがぶちのめす。それで鉄球、オレの鉄球はどこだ。

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