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安息のある場所 all


 メローネとイルーゾォという組み合わせがそもそも珍しいがそんな二人が喧嘩もせず大人しく留守番していたというのはもっと珍しい。ホルマジオがいたなら、空から槍でも降ってくるんじゃあねぇか〜?と言っただろうが、実際空から槍なみの珍事が起きた。
 ガッ… バンッ!
「ん?」
 アジトの玄関から不審な音がして、イルーゾォは淹れかけていた紅茶のティーカップをもったまま、ダイニングから鏡の中を通って玄関口の姿見に移動した。
「…なにやってんだ?」
 仕事着のリゾットはフラフラと壁やら靴箱やらに体をぶつけながら歩き、不意に体が傾むいたとおもったら、そのまま床に倒れ込んでゾンビのように這っている。
「ワーオ。ディモールトこわい」
 リビングでぐだぐだしていたメローネも、携帯電話片手に野次馬しにやって来た。電話の相手はギアッチョだったらしい。特徴的なやかましい声が通話口からもれている。
『オイなにしてんだオメー話してる最中にいきなり無視すんなッ』
「悪いギアッチョ、リゾットがゾンビになってて」
『はぁ?』
「おい大丈夫か?つーか、意識ある?」
 イルーゾォが姿見から体を出して、這っているリゾットの腕をつかむと、突如イルーゾォの手の甲からホッチキスの芯が飛び出した。
「うぎゃあッ!!」
 とっさに手を引っ込めたイルーゾォはそのまま反射的に鏡の中に逃げ込んでしまう。
「やばい、メタリカ自動発動状態だ」
 床に落ちた血だらけのホッチキスの芯を見やり、メローネは顔をひきつらせて後ずさった。リゾットは相変わらずうつむいたまま床をずるりずるりと這っている。
『おいッ、メローネ?なにがあった!?』
「まずいぜギアッチョ、なんてゆうかバイオハザードってゆうかダイハード的な……ギアッチョ?」
 おい?と呼びかけても返ってくるのはツーツーツーという無情な電子音。耳から離してディスプレイを見れば、通信不可の文字。
「メローネ、磁場が発生してるんだ」
「げっ」
 イルーゾォの忠告もすでに遅い、携帯はもはや使い物にならなくなっている。舌打ちひとつ、メローネは鏡面に逃げ込んだままのイルーゾォを睨みやった。
「とりあえずリゾット運ぶの手伝ってくれよ。こんなとこに転がしといたら邪魔でしょうがない」
「いやだ。どんな攻撃喰らうかわかったもんじゃねえ」
「『ベイビィフェイス』に分解させるか…?」
 ひどい言われようだがそんなことも一切微塵もおかまいなく、相変わらずリゾットは玄関から廊下にでかい図体を這わしている。気づいたが、ゾンビというよりでっかいゴキブリだ。



「なんだこりゃ?」
 なんだもくそもソレは至極見たままのソレであったので、プロシュートの呟きは疑問というより単純に抗議だ。ダイニングテーブルでのんきにコーヒーをすすっているホルマジオが、一応言葉を投げてくる。
「帰ってきてそっこー玄関でぶっ倒れたらしいぜ。張り込みの仕事で一週間ほぼ寝てなかったみてぇだから、放っておいてやれよォ〜?」
「俺だってこんなもんに関わりたくもねぇが邪魔でしかたねえ」
「そこまで運ぶので精一杯だったんだ。ほめてほしいぐらいだよ」
 ホルマジオの向かいで携帯をいじってるメローネが大仰に肩をすくめてみせるのを一瞥して、プロシュートはもう一度、自分の足もとに目をやった。リビングに据えられたソファを背にして、床に大きな黒いものが転がっている。寒いのか少し体を丸めているが、全体的に自業自得だ。
 犬みたいな格好でリゾットはつまり一心不乱に寝こけている。プロシュートをはじめ全員がとくに声をひそめるでもなく普通の音量でしゃべっているが、そしてプロシュートは今、リゾットの真横に気配を消すでもなく無駄に堂々と立ってるわけだが、まったく起きる気配はない。
 のぞきこめば眉間には苦悶のしわが寄っている。そりゃ寝心地よくはないだろう。ラグが敷いてあるとはいえ、単純に堅い床の上だ。
「リゾットのやつメタリカ発動状態で意識飛ばしやがって、おかげで携帯がイカレちまった」
「俺なんか手をホッチキスされたぜ…」
「軽いもんだろ。酔っぱらったリゾットに腹から有刺鉄線引きずりだされたことある」
「よく生きてたなァそれ。むしろオメーがすごい」
 わりあい神妙な顔でホルマジオに褒められたが、とくに嬉しくない。そんなことよりプロシュートはソファに座りたいのだった。一人用のソファは雑誌を広げるイルーゾォに占領されている。プロシュートはあきらめたようにため息を吐く。



 けたたましい音を響かせて玄関の開閉音がしたと思えば、そのままの勢いでギアッチョがリビングに突入してきた。
「メローネの野郎はどこだッ!?」
「どっか出かけたぜ」
 立ちっぱなしで林檎にかじりついているホルマジオが返すと、ギアッチョは盛大な舌打ちをひとつ、その背後からペッシが顔を出して変だな、と呟いた。
「メローネに新しいトラットリア連れてってもらう約束だったんだけど」
「電話途中でぶった切れたまま連絡もつかねえ。わざわざ車出したっつぅーのによォ〜〜〜」
「ああ、じゃあ携帯ショップにいってんのかもな?壊れちまったみてぇだから。まぁ待ってりゃそのうち帰ってくんじゃあねーの。バイク置きっぱなしだろ」
 ホルマジオの真っ当な意見にさからう理由もなかったので、ギアッチョは苛立たしげに鼻を鳴らしてリビングのソファへ向かった。腰をおろそうとソファを回り込んで、ギアッチョはふと足を止めた。ソファの背からおだんごを作った頭が見えていたのでプロシュートがいることはわかっていたが。
「なにしてんだオメーら」
 プロシュートはギアッチョを振り仰いで片眉をあげた。
「見たまんまだが?テレビみてる」
「そーじゃねぇだろオメーの足もとのそりゃなんだっつってんだ」
「リゾット」
「ああだろうなそうだろうよッ!じゃあなんでオメーはそのリゾットを足置きがわりにしてんだァ!?」
 プロシュートはソファに体を沈ませその長い足を前に放り出してるわけだが、なぜかその足の下に寝転ぶリゾットを敷いている。そもそもなぜそんなところでリゾットが寝ているのか、というか一見した感じではプロシュートが足蹴にして虐げてるようにしか見えないが。
「なんでって…」
 ギアッチョに吠えられ、プロシュートは軽く小首をかしげてみせる。
「そこにリゾットがいたから?」
「予想通りの返事すんじゃねえあとちょっとかわい子ぶるんじゃねえイラつくぜェーッ!!」
 こうしてギャアギャア騒ぐギアッチョとあくまで平然としたプロシュートのいつも通りのやかましいやりとりが始まるわけだが、それにしても足蹴にされているリゾットは相変わらず起きる様子もない。ホルマジオなんかは、こんな騒がしい中でよく寝れるなとその図太い神経っぷりに賞賛を与えたくなるが、リゾットにとって思いっきり寝こけれる、つまり気をゆるめられる場所がここなんだとしたら、それはそれで価値あることのように思えるのだ。
 まぁ、そんな風に悠長な考えに及ぶホルマジオにしても、この光景にとくに慌てもしないペッシも、寝てる人を足置きにするプロシュートもまったく遠慮なく叫び続けるギアッチョも、ついでにいえば人と約束していながらマイペースに出かけてるメローネもすでにすっかり興味をなくして自室にこもるイルーゾォも、そろいもそろって神経が図太い。もちろん一番極太なのはリゾットだ。

王道変換バトン.6.9.10 mix


6:傷ついた天使(妖怪など人外の者でも可)を保護した人。人は?

 路地裏にうずくまるソレをジョルノは最初あやうくスルーしかけた。イタリアの一角、このネアポリスで、乞食まがいのガキなど掃いて捨てるほどいるからだ。
「……?」
 それでもジョルノが足を止めたのは、毛布をかぶったその塊が、路地裏をずるりずるりと這おうとしていたからだ。毛布にすっぽり包まれてしまう、体の大きさからみて子供にちがいないが、怪我でもしているのだろうか?
「おい…」
 路地裏をのぞきこんで、ジョルノは毛布の塊の様子をうかがった。声をかけても、こっちに振り向く気配もなければ、這う動きを止めるでもない。
「どうしたんだ、怪我してるのか…?」
 かがんで、毛布に手をかける。少し持ち上げると、子供らしい小さな手がのぞいた。
 指が、2本しかついてない。
「!」
 サッと毛布が引かれ、子供の体はすぐにまたすっぽり隠れてしまった。けれどジョルノはたしかに見た、中指と薬指と小指が本来あるはずの場所に『ついていない』。親指と人差し指しかなかった。
「こんなとこにいたのか、ベイビィ!」
 背後から響いた声に振り向く間もなく、ジョルノと毛布の塊の間に人影が割って入った。一瞬女かとおもう長い髪が揺れ、その毛布の塊をなんなく抱き上げる。
「いきなり逃げるから心配したぜ…どこも怪我してないか?」
 言葉のわりにその声には、労りややさしさが微塵も感じられない。ジョルノは警戒心を強め、その後ろ姿を見つめた。
 やがてくるりと振り向いた男は、顔に妙なマスクをつけていた。にっこり、ジョルノに笑いかけてみせる。
「悪かったな、『コレ』が何か迷惑かけたか?」
「いや……その子は、あなたの…?」
「『弟』だ」
 ジョルノは不意に直感した。この男は、自分と同じ種類の人間だ。心の奥底が冷えきっている、あるいは、空虚でからっぽな。
 弟をふつう『ベイビィ』と呼ぶだろうか?そんなもの嘘だとすぐに知れる。しかも、嘘をついてる、ということを、隠そうともしない。タチが悪い。
 男は、見た目だけは優等生の笑顔を崩さないまま、抱き上げた毛布の塊をもう一度抱え直して、ジョルノの前をすり抜けていった。ジョルノには男を引き止める理由がなく、毛布の塊が本当に『弟』なのかどうか、あの指はどういったことか、そもそもアレは、人間だったか?
 疑問はなにひとつ解決されないまま、ネアポリスの薄暗い路地に放置された。





9:霊感もなくいきなりその存在を知った人と新参者な(守護)霊。人は?

 なんの悪夢だと思わなくもない。
 これまでの人生でそれなりに悪い行いをしてきた自覚がないわけじゃないミスタだが、それにしたってこの仕打ち。すべては今日乗ったタクシーのナンバープレートに4の数字が入ってたのがいけなかった。
「ったくよォ…こちとらジョルノのお守りで手ぇいっぱいだっつぅーのに…」
「おいおいおいそっちの道はこの時間帯クソ渋滞に決まってんだろうが!俺の話聞いてんのかよ運転手よォッ!」
「うるっせぇよオメー黙りやがれ!!」
 思わず発したミスタの怒声に、タクシーの運転手がヒイイッと悲鳴をあげた。すいませんすいません殺さないでくださいイイイというあたりで、ミスタもようやく我に返る。そうだ、運転手にとっちゃ乗車客は俺だけなんだ。このやかましい迷惑野郎は、俺にしか見えていないんだった。
「大声で怒鳴るんじゃあねーよ『拳銃使いのミスタ』」
「その言葉そっくりそのままオメーに撃ち返すぜッ」
 ミスタはため息とともに後部座席となりに座るメガネ小僧に目をやった。クルクル頭のメガネはさっきまで運転席に乗り出していた体をシートにふんぞり返らせて、足を組みゆうゆうと両手を頭の後ろにやっている。
 元パッショーネの暗殺チーム、氷のギアッチョ。
 ある日、いきなり、だ。ミスタの元に現れて、今日からオメーの守護霊ってことになっちまった、よろしくたのむぜなんて言ってきやがった。それはもういきなり、堂々と。
 なんの因果で、直接戦い合って殺した相手に、守護霊になってもらわなきゃならねぇーんだ。
 しかも幸か不幸か、彼に生前の記憶はないようだった。自分が何者か、どういったスタンドを使って戦っていたか、ミスタとどれほどの覚悟を突きつけ合ったか、そして自分たちの属するチームがどうなったか。
 何も知らない。すべて忘れている。
「ミスタ…あなた大丈夫ですか?疲れてるんじゃあ」
 突如かつての敵が幽霊となって現れ、なかば恐慌状態でジョルノにありのまま起こったことを話したら、まぁ予想どおり、最初はかわいそうな人を見る目で見られ、それでもミスタが必死に訴えたら、少し考える振りを見せ、そうゆうこともあるかもしれないですね、とうなずいた。
「まさか…おめーんとこにも守護霊が…?」
「そんなわけないでしょうバカですか?」
 結局一刀両断され、害はないようですし自分で面倒みてくださいと放任主義の新ボスは爽やかにミスタの訴えを受け流した。鬼だ、悪魔だ。
「だいたい俺は幽霊だとかそうゆうのはよォ…苦手なんだ、なんかよくわかんねーから…」
「だからァ俺は幽霊じゃあなくて守護霊だっつってんだろォーが」
「変わんねぇーんだよどっちだってッ!つーか、守護霊ってゆうんなら普通味方がなってくれるもんじゃあねぇのか、ブチャラティたちは何やってんだ」
「俺はおめーの『味方』だぜ、なんせ守ってやってるんだからなぁ」
 ギアッチョは思いのほか屈託ない笑い顔を向けてくる。舌打ちひとつ、ミスタは車窓を流れる景色を睨みつけた。
 なによりも厄介なのは、こいつが悪い奴じゃあないってとこだ。
 いやギャングでしかも人を殺しまくってたんだからきっぱりと悪い奴だが、こうやって話してみれば、敵同士じゃないところで出会っていれば、ごく気軽な飲み仲間ぐらいにはなってたんじゃあないかと、思ってしまう、それが一番ミスタにとって厄介なのだった。





10:雨に濡れたペットを拾ったご主人様。ペットは?

 濡れそぼってる姿は捨てられた子犬に似ていてあまりに憐憫を誘ったが、タオルとあたたかいスープとフォカッチャを与えると、とたんに夏の海を駆け回る犬レベルに回復した。それはそれで見ていておもしろいと思うリゾットは、もともと犬猫が好きな性質だ。
「お、だいぶ元気になりやがったなァ〜〜まだ食うか?」
「いいの!?」
「おお、食え食え〜リゾットのおごりだ!」
 好き勝手言ってエサを与えているホルマジオは、焼きたてのフォカッチャをのせた皿をもうひとつ、少年の前に置いてやる。少年はタオルを頭にかぶったまま皿に飛びついた。
「おいおい、どんだけ腹すかしてたんだよ?おめーちゃんと普段から飯食ってんのか?つーか道ばた暮らしか?」
「ちがうよ、俺はちゃんとしたギャングだッ」
「はいはいギャングならもちっと太っておっきく育て、そんなガリッガリのなりしてねぇでよ」
 ホルマジオが少年をストリートチルドレン扱いするのも仕方ない。仕事を終えアジトに戻ってくると、軒下でびしょ濡れの少年がうずくまっていた。気づいたのはリゾットで、声をかけたのはホルマジオだった。
 オイ生きてるかぁくたばるなら余所いってくたばれ、とホルマジオが足で突つくと、少年はガバッと顔をあげて一言、「腹が減って動けねえ!」
 さすがにアジトの前で行き倒れられると面倒なので中に連れ込んだ。
 フォカッチャで少年を手なずけるホルマジオを横目に、リゾットはインスタントコーヒーをいれたマグカップを3つ、テーブルに置いた。ここ数日冷たい雨が続いたせいで、暖房をつけていても部屋のなかは冷えきっている。
 リゾットは自分用のマグカップに口をつけながら、タオルをのっけたままの少年の頭を見下ろした。
「親か保護者はいるのか?」
「だから俺はギャングだって!学生じゃあねーんだぜ…」
「迎えに来てくれるような人はいんのかよ?」
「…ブチャラティなら」
 そっか、と少年の頭をがしがし撫でるホルマジオの横で、リゾットは少年の口から出た名前が脳裏を騒がせる予感がした。ブチャラティというのはおそらく、『パッショーネ』の管轄するネアポリスの一地区を預かるギャングだ。
(こいつがギャングを自称するのも、あるいは本当なのかもしれねえな…)
 まったく信じられないが。なんせ数分前は道ばたで空腹をかかえ死にかけてたし、今は熱々のフォカッチャに犬みたいに食らいついている。見た目はやせっぽっちの小柄な少年だ。ただの学生ぐらいにしか見えない。
(もしかしたらこいつも、『スタンド』を使うのかもしれねえってわけだ)
 そんな頼りなげな少年が本当にパッショーネの一員としたら、つまりはそういうことだろう。パッショーネのボスが、『能力』をもつ者を積極的に引き入れてることは知っている。
 とはいえ、別にリゾットに少年をどうこうする気はいっさいない。暗殺の指示がでてるわけでもなし。
 仕事じゃなければ殺しなんて面倒はしない主義だ。それはチームの連中に共通していえることだった。殺人を悪とも思わないメローネなんかは、それこそ仕事でもなく女を殺すことはあるが。『ベイビィフェイス』の息子を育てる『お試し』のために。
 もし少年がパッショーネの一員なら、そしてスタンドを使うのなら。
 もう二度と会うことがなければいい。ごく自然にそう思う程度には、リゾットは年下に甘い。

王道変換バトン.1-5 all


1:昔から共に生きてきた主と従者。主は?

 『それ』に表情というものを感じてしまうのはごく主観的な問題に思える。あるいは本体である己の情動とリンクしているのだろうか。としたら正しく『それ』は笑っているのだ。今この瞬間に。
「悪ぃな…最期まで、もってくれよ……」
 急行列車の轟音に耳をつんざかれ、もはや自分の声さえ拾えない有様だが、『それ』はプロシュートに応えるように無数の目を見開き、致死の煙をまきちらした。ボロボロと剥離する体を厭いもせずに。
 いい子だ。プロシュートは千切れず残った腕をなんとか持ち上げ、背後にいるだろう『それ』を抱き寄せる。
 触れる、という感触はない。『それ』に触れれるのは似たような構造をもつ他者の精神具現物体だけだ。たとえばメローネのもつ似たようなモノが生み出した『息子』が、その小さな体で手で指で、プロシュートの『それ』におそるおそる触れようとするのを見たことがある。子供が、大型犬におそるおそる触ろうとするのと似た仕草で。
 おまえは俺の一部なはずなのに、俺が触れられないってのは、おかしな話だな…。
 プロシュートは血だらけの手で『それ』の頭を抱き寄せ親愛のキスを施したかったが、『それ』は力つきたように順に順に体中の無数の目をとじていく、ゆっくりとゆっくりと、ボロボロ剥離する体、列車の車輪に巻き込まれ千切れていく、最後に残った瞳がプロシュートを見て、やっぱり笑っているように見えた、その瞳が閉じるのに今度はプロシュートが呼応して、視界がねむるように暗く落ちていく。自分の死を客観的に眺めるようだった。予想していた以上にごく静かな幕引きだった。自分の一部である『それ』と額を寄せ合ってねむりに落ちた。





2:相方をかばった怪我が原因で記憶喪失に。記憶を失ったのは?

「つぅーわけだ。わかったか、メローネ」
「へんな名前だ」
「知ってるよ、けどそれがてめーの名前だッ」
 面倒になってギアッチョはベッドに身を投げた。安宿のスプリングが不穏な音を鳴らす。
 寝転がって天井を睨んでいると、視界ににゅっと顔が突き出てきた。アシンメトリーの長い髪がカーテンのように降り注ぐ。
「あんたの名前は」
「ギアッチョ」
「ギアッチョ。へんな名前だ」
「うるせぇなッ!!」
 なんでこんな目に、と思うわけだがその原因は見上げた先、男の頭に巻かれた包帯とかガーゼとか、そうゆうのが雄弁に語っている。不意打ちを食らって敵の襲撃を受けたギアッチョの目の前に、バイクが飛び込んできた。突っ込んで来た末に、転倒。さいわい軽傷だったが打ちつけた頭が重症だった。いやもともとこの男の頭は重症だったから今さらの話ではあるが。
 男の、ブルーに血の色が透けたヴァイオレットみたいな瞳が、寝転がるギアッチョの顔を覗き込んでくる。
 妙に落ち着かないとおもったら、マスクをしてない。あの奇妙なマスクを通さず見る顔は、どこか男っぽさが強い。長い髪がざらりと肩を落ち、ギアッチョの眼前に降りかかってくる。
「それで、『ギアッチョ』と『メローネ』はどうゆう関係だったんだ?」
「うるせぇ黙れもっぺん事故って飛び散った記憶の欠片かき集めてきやがれボケが」
 面倒きわまりない。こいつと自分の、関係性を表す言葉など。そんなもの。





3:敵に操られ仲間を攻撃! 操られたのは?

 ものすごいスピードで振り下ろされた手をリゾットは惰性で避けた。あまり動き回ると足下の小さな生物たちを踏んでしまいそうだ。かといって、そっちに気をまわしつつ敵襲をかわすにも限度がある。
「ほんと悪ぃなリゾットォ〜〜おめーに恨みはねえんだけどよぉー」
「この状況を考えるとその言葉も信じられねぇがな」
 それでもリゾットには笑みを浮かべるぐらいの余裕はあった。
 なんせリゾットのスタンド能力は一撃必殺だ。相手はすでに能力射程距離内にいる。いつだってその気になれば仕留められるわけだが、いまだそれを実行しないのは、相手が本来は同じチーム内のメンバーだからだ。ついでに本人の意志じゃない。
「せめて『リトルフィート』を解除することはできないのか」
「だーかーらぁ操作されてんだって、なんか俺の脳みその一部分がよぉ…おかげで俺自身は身動きもとれねーのに、スタンドは元気に走り回ってやがる…おいリゾットあぶねえ!」
 ホルマジオの声に反応してリゾットは飛び退る。目の前を、リトルフィートの鋭い爪が切り裂いていく。ホルマジオの警告はリトルフィートの動きより一瞬速い、ということは、精神の一部を操られながらも、ホルマジオ自身はやはりリトルフィートと意識がリンクしているのだろう。
 ふむ、と考え込むリゾットの足下で、小さな生き物たちが声を上げる。
「オイッ!何やってんだよリゾット!」
「さっさとメタリカ使えって!」
「あ、あぶねえッ!おい!もうちょっとで踏まれるとこだぞ!ちゃんと下見ろ、下ッ!」
 ちょっと大きいネズミぐらいのサイズに縮まったギアッチョとイルーゾォとプロシュートが、リゾットの足を囲んでギャアギャア騒いでいる。見ようによっては可愛らしいお人形だが、リゾットはその凶暴性を熟知しているので、一切の同情も覚えない。
「あんまりちょろちょろするな。どこかに隠れていろ」
「おめーこそちんたらやってねぇでさっさとスタンド使いやがれッ!」
「メタリカ出せばしまいだろーがよッ!」
「うわ、きたな!リゾット靴ぐらい磨いとけよ」
「…こいつらにメタリカ使ってもいいか」
「なんでもいーから早く俺を止めてくれェ〜〜〜」





4:新任の先生と入学したばかりの生徒。先生は?

 たしか飯に誘ったのはイルーゾォの方からだ。それはまちがいない。ペッシは何度も自分にうなずいて言い聞かせつつ、ちらと顔をあげた。
 何度みても向かいに座るイルーゾォはコミック漫画を読んでいる。
「………」
「………」
 ま、間がもたない……。
 ペッシはふ〜っと視線を流し店内をなんとなしに眺めることにする。この行動もすでに3度目だ。ごく平均的なカフェテリア。客もそこそこ賑わっている。
 普段ならこうしてペッシを飯に連れて行くのはプロシュートかホルマジオだ。リゾットの場合もある。時々メローネもいたりするがペッシはいまだにメローネがちょっと怖い。ギアッチョの方が分かりやすくて安心できる。唐突に電撃的に不条理に怒鳴られることはあっても。
 ペッシがこのチームに加入して3ヶ月。本当なら今日もいつも通り、プロシュートと飯をする予定だった。けれど出かける段階になって緊急の連絡が入った。
 リゾットからの呼び出しを受け、プロシュートは舌打ちと玄関の壁に蹴りひとつ、俺にかまわねぇで先に飯いっとけ、と言い残して仕事に行ってしまった。
 そのとき偶然アジトにいたのがイルーゾォだ。
「………」
 店内をさまよわせていた視線を一周させて、ペッシは再び目の前でコミックに没頭するイルーゾォを見る。詳しくはしらないが日本の漫画らしい。イルーゾォの行きつけだというこの店に入って、席について、メニューを開いて注文して、その2秒後にはカバンから取り出したコミックを広げていた。
「……あの、イルーゾォ」
「ん?」
 やはりコミックから目を離さず、イルーゾォが返してくる。
「えーと。ここにはよく来るのかい」
「あーまぁそこそこ」
「へえ……」
「………」
「………」
 た、助けて兄貴ィィーーーーーッ!!!
 心の中でプロシュートに助けを求めながら、いやこの際ホルマジオでもリゾットでもギアッチョでも、最悪メローネでもいい、とにかく誰かこう、間のもつトークをできる人間をこの場に派遣してくれと、ペッシはじゃっかん泣きそうだった。
 嫌われてるわけじゃあない、と思う。イルーゾォは比較的ペッシに対して距離をおいた接し方をしてくる。それはある意味の気遣いだ。
 聞いたところによると、イルーゾォもチームに入って長いわけでもないらしい。もちろんペッシよりは前だが。チーム内の新人を預かれるほどのキャリアはないということだ。
「………」
 だからこうやって、イルーゾォがわざわざペッシと飯を一緒にする必要は、まったくもってない。つまりこれはイルーゾォのボランティア精神だ。たぶん。まだ街に不慣れなペッシのためを思ってのことだ。…たぶん。
「………」
「………」
 イルーゾォは相変わらずコミックに没頭している。読み終える気配はまだぜんぜんない。これでもし料理がきても読みながら飯を食う人だったりしたらどうしよう。ペッシにできるのはただ祈ることばかりだ。





5:出会ってしまった民間人と王族(もしくは貴族)。民間人は?

「フランス王室の血を引いてるんだぜ。本当だ」
 メローネの揺らすワインボトルから、血のように赤い水が滴る。それがよく磨かれたグラスの中に円く踊ってそそがれる。
 差し出されたグラスを受け取って、プロシュートは軽く香りを楽しんでから、一気にあおる。のどを滑る重厚な渋み。これは上等のフルボディだ。
「フン…それで、フランス王室の血を引く貴族が、今は泥棒のまねごとか?」
「悲劇的だろ?フランス革命で殺されたルイ18世の息子だって、自分がフランスの王ってことをすべて忘れて民間人に成り下がったのさ」
「で、おまえはそれの孫の孫って?」
「いや、俺は正確にはオルレアン家の系譜だ。今でも正統な血筋がイギリスで続いてる。革命でフランスから亡命してね」
「おとぎ話だな」
 鼻で笑いつつもおもしろがる様子のプロシュートに、メローネは悪いおとなの笑みを浮かべながら、じかにワインボトルをあおる。
 先日殺したターゲットの家から、くすねてきたというロマネコンティ。最高峰と呼ばれるフランスワインは、安くて10万からの品物だ。まず普段飲む機会などない。
 そんな嗜好品を、最高級ホテルでも豪奢なバーでもなく、こんな味気もくそもないアジトのダイニングでかっ喰らっている。冒涜もいいとこだ。それを言うなら、プロシュートやメローネの存在自体、ジーザス・クライストへの冒涜そのものだった。
「おとぎ話と思ってたよ、俺も昔はね。マードレが作った夢物語だろうって。でもある日、俺は見つけちまったんだ、マードレが大切にしまっていたジュエリーボックスの中に、オルレアン家の紋章入りのブローチを」
 メローネがミュージカルのように大げさに両腕を広げ戯れ言を披露するのを、観客席のプロシュートは笑いながら見上げた。
 ダイニングテーブルに腰かけて足を組むメローネは、イスに座るプロシュートから見れば、白々しい電光を受けてあまりに安物の王族だ。せめて玉座を彩るのがロマネコンティで救われる。
 楽しげに笑って、ボトルをあおるフランス王位継承者は、唇から赤い水をこぼれさせる。黒い服にポタポタと染みを落とす。
「お行儀が悪いぜ、殿下」
「あーらら。舌で拭いてくれないか、そこの一般市民」
「調子のってんじゃあねーぞ」
 高貴な血の色の水が安く消費されていく。チープなおとぎ話はたかが酒の肴だ。

やさしさなど知らずに f.p.g.m


「おい、アレ。どーにかならねぇのか」
 最初に音を上げたのはやはりというかホルマジオだった。ダイニングテーブルにつくプロシュートはめくっていたファッション雑誌からちらと目を上げる。
「どーにかって、どう?」
「黙らせるか大人しくさせるかっつぅーことだよ」
「ふたりまとめて要介護なジジイにでもしてみるか?」
「ま、それもいいがな……」
 さすがに死ぬんじゃあねーの、とホルマジオは肩越しにリビングの方を振り向く。6人掛けの長いソファには巻き毛の男、一人掛けのソファには長い直毛の男が座っている。
 座っているだけならいいが、このチームに参入してまだ日の浅い2人は、互いに不穏な空気をまき散らしまくっている。公害もいいとこだ。
「おい…足どけろよ」
「はァ~!?おめー頭だけじゃなく目も悪ィーのかァ~?ギプスつけてんだろーが、曲げれねぇーんだよ足上げとくしかねぇだろーが」
「ならベッドでおとなしく寝てろよ。目障りだ」
「目障りならオメーがどっか行け俺のが先にココに座ってたんだからなッ!」
「自力じゃ歩けもしねぇくせに動きまわるなアホメガネ」
「歩けなくてもテメーを凍らしてブチ割るぐらいワケねぇーんだぜクソマスク野郎がァーッ!!」
 勢い余って立ち上がりかけたギアッチョは、ギプスで固められた片足をローテーブルに載せている自身を失念していたらしい。結果、半分腰を浮かしただけで、片足の複雑骨折の痛みにうなってソファに逆戻る。
 仕事中の怪我とはいえ、『ホワイトアルバム』の無敵の装甲を過信して突っ走ったのだから自業自得だ。弾丸は止められても衝撃は消せない。車に跳ね飛ばされれば、当然骨も折れる。
 一方、ギアッチョに冷ややかな目線を投げつけるメローネは、見せつけるように悠々と足を組み直す。だがその両腕は包帯でぐるぐる巻きだ。皮膚には賽の目状の傷が縦横無尽に走る。まるでオセロの碁盤をえがいたかのように。
「…だいたいよォ、自分のスタンドに攻撃されるってのはどうゆうことだぁ~?テメーの精神が未熟だから、そうゆうことが起こるんじゃあねーのかよ」
「『ベイビィフェイス』の息子は自律型だ……おまえに俺のスタンドは理解できないだろうけどね」
「テメーが一番テメー自身のことをわかってねえんじゃねーのかよ!」
 ガンッ!!
 メローネがローテーブルを思いっきり蹴りつけたと同時、ギアッチョの手がメローネのむき出しの肩をつかんだ。一瞬にして空気とともに肩が凍りつく。ギアッチョを睨みつけるメローネは、テーブルにのせていたパソコン型スタンド『ベイビィフェイス』に手をのばした。傷だらけの両手でも扱うつもりだ。
 だが次の瞬間、メローネに掴みかかっていたギアッチョは見る間に小人のように小さくなった。知らぬうちに背後に立っていたのは『リトルフィート』だ。
「おめーら白熱しすぎだっつぅーの。ったく、しょおがねぇなぁぁ~~~……」
「なんで俺だけなんだよッ!この変態バカマスク野郎もだろーがッ!」
「スタンドを先に使ったほうが悪い。ここでのルールだ」
 手のひら大になったギアッチョがソファの上でギャンギャン騒ぐのを、プロシュートが一刀両断する。ようやく読んでた雑誌を放ったということは、一応ホルマジオに加勢するつもりはあるらしい。
 ホルマジオはやれやれと肩をすくめ、小さいギアッチョをつまみ上げた。
「ちょっと頭冷やせよォ~~仲良くしろとはいわねぇけど、面倒は起こすんじゃねえって」
 小さくなっても騒ぎ続けるギアッチョをつまんだまま、ホルマジオは上のフロアへ移動する。上がっていく途中でちらっとプロシュートに視線を寄越した。こっちは引き受けるから、あっちをどうにかしろ、と言いたいらしい。

 ギアッチョの声が聞こえなくなってから、プロシュートは立ち上がって、さっきまでギアッチョがいたソファに腰を落とした。横に目をやると、『ホワイトアルバム』をくらったメローネの肩はもう元に戻っている。
 無言のまま煙草ケースから一本引き抜き、火をつける。深々と吸い込む。紫煙を、天井に向かって吹きあげる。
「一本ちょうだい」
 メローネが、包帯に巻かれた手を差し出してくる。ふしぎと、さっきまでのトゲのある様子はもう微塵もない。
 プロシュートに対してはいつもこんな感じだ。だからプロシュートにとってのメローネの印象は、愛想が良くてつかみ所のない奴、となっている。第一印象からそうだった。
 煙草ケースを放ると、メローネは痛むだろう両手でキャッチして一本抜き、ケースの隙間にねじこませていた安物のライターで火をつけた。一度吸い込んだ煙を吐いてから、grazie、とケースを返してくる。
 ギアッチョに対してもその素直さで応対すればいいものを。
 しかしまぁ、はたから見てもこの2人はそれぞれに厄介な性格をしている。1人でも面倒だから2人そろうとさらに面倒だ。
 なのになぜ今回のように、この2人で仕事を組ませるかというと、性格的にも能力的にも補い合えるタイプだからだ。短気で直情的だが理論的で徹底したギアッチョと、慎重で冷静だが感覚的で流れに身を任せるメローネ。直線的で直接的かつ単純に強力な『ホワイトアルバム』と、遠隔操作で自律し特異な能力を発揮する『ベイビィフェイス』。
 うまく組み合わされば隙のないコンビネーションになるはずだ。それなのに、ここまで性質が合わないとなると、話にならない。
 暗殺を生業とするこのチームでは、「チームワーク」は存在しないが時として「チームプレイ」は必要となる。仲良しこよしで頑張るものじゃないが、それぞれが能力に特化する分、補える部分は補い合えなければ、命などいくらあっても足りない。
 プロシュートはギャングとしてのけして短くない経験からそれを知っていた。メローネにしても、パッショーネに入ったのはここ最近らしいが、感覚として察しているはずだが。そこまで馬鹿じゃないはずだ。
「うまくいってねぇのか」
「見ての通りさ。やたらアイツの方から突っかかってくるし」
「そっちじゃねえ。ギアッチョとのことはオメーらで片付けろ。『ベイビィフェイス』の息子だ」
 メローネは「ああ…」と吐息のようにこぼしてから、背中をゆっくりソファに沈めた。
「『イイ育て方』が、まだつかめてないのかも。能力は高い。殺傷力も申し分ない。ただ、言うことをちゃんと聞かないことが多くて。俺を憎く思ってるみたいだ」
 煙草を指にはさみ、無意識に包帯の巻かれた腕をさする。
 プロシュートはそれを横目に、まだ長く残る煙草を灰皿に潰した。
「『イイ育て方』か……言うことを聞かねえってのは問題だな。『息子』の攻撃力の高さは、おめーが身をもって証明してるわけだし。でもそれをコントロールできねぇと仕事にならねえ」
 一番にどうにかすべき問題はそこだ。ギアッチョがメローネに苛立つのは、性格の不一致もあるが、スタンド能力のコントロール性にも起因している。
 直接身にまとって直接的な作用を起こす『ホワイトアルバム』の使い手であるギアッチョにとっては、『ベイビィフェイス』のように流動的で不確定要素の強いスタンド能力は、未知で不可解だ。完璧に自分のコントロール下におけない能力、というのに、恐怖に近い感覚を覚えている。たぶん。
「わかってるよ。『息子』は性質上、カンペキな制御はできないけど、きちんと育てれば俺の言うことを聞くようになるはずなんだ。それはわかってる。だけど、どう育てれば『イイ息子』になるのか、そこんとこがよくわからない」
 メローネは深く座り込んだまま片足を抱えて宙を見る。その表情はたよりなげだ。
 ギアッチョはメローネのことを、いつも余裕綽々でいけ好かねぇ野郎だと思ってるようだけど、実際にはこんな風に迷いや不安をにじませることもある。少なくともプロシュートは、メローネのこの顔を知っている。
 メローネがギアッチョに対してこうゆう姿を見せていないのだとしたら、見栄を張っているのかもしれない。ギアッチョに対してだけ。
 どっちにしろプロシュートから見れば、2人の反発はガキの張り合い、青くさいライバル意識からくる対抗心だ。
(ま、ライバルがいるってのはイイことかもしんねぇけどな。能力を伸ばし合うような関係になれれば)
 という考えだからプロシュートはこの2人に対してやや呑気な姿勢といえる。あまり切羽詰まってどうこうとは思わない。
 メローネは手と口の間で煙草を一往復させ、煙を吐いてから、プロシュートの方に身を乗り出してきた。
「なぁ、あんたはどう思う?どうやって育てたら『イイ息子』になるかな」
「さぁどうだろうな。俺らは教育者じゃねえし、結局は自分の親にしてもらったようにしかできねーんじゃねえか?」
「殴ったり蹴ったり無視したり?」

 プロシュートは、自分の親のことをふと思い浮かべた。この20年ぐらい思い出すこともなかった親だ。
 そもそも自分は『イイ息子』だっただろうか。かけらもそうは思わない。たぶんメローネもそうなんだろう。だから迷子みたいな目をプロシュートに向けてくる。彼が適切な『イイ教育者』になれる日はくるんだろうか。なれなければ、プロシュートたちの手でメローネを始末しなければならないのだけれど。

良質の余暇 i.f.m.p


 赤、黄色、水色、ピンク。包み紙は妙にハッピーな色合いだ。そういえば子供の頃はよく買ってもらって食べてたっけ。イルーゾォは記憶の糸をたぐりよせた。軍人だった父はこんな軟弱なものと嫌っていたけど、母はファンシーなものがなんでも好きだった。
 箱いっぱいに詰められた色とりどりの棒付きキャンディの中から、オレンジ色に包まれたものを取り出す。蜂蜜入りのミルクハニー味。
 もうひとつ思い出した。ホットティーにこのキャンディをくるくる混ぜて溶かすとおいしいんだ。
「チュッパチャップス?」
 横からイルーゾォの手元をのぞきこんできたホルマジオは、イルーゾォの肩越しにレジの店員に煙草のソフトケースを手渡す。いつもの見慣れたパッケージのやつ。
「おめー味覚がお子様だよなぁほんと」
「シュークリームもプリンも大好きだよ。ほっとけ」
 おまけにエスプレッソをほとんど飲めない。コーヒーにもミルクと砂糖をいれる。
 ホルマジオのあとでキャンディのお金を払って、連れ立って店を出た。
 終電直前の駅前には普段じゃ考えられないぐらいの人であふれている。ヨーロッパ全土を襲った大寒波のおかげで、ここ何日かの大雪続き。ただでさえ時刻表通りに発車しない電車が続々遅延か通行止め。
 人の波を避けながら、イルーゾォとホルマジオは7番ホームへ向かう。イタリアを南下する特急列車が復旧の見込みもなく線路に留まっている。スーツケースに腰をおろして談笑し、本格的に夜を明かす覚悟の旅行者たち。
 ゆるやかに雪の降り続けるホームの柱のそばに、プロシュートとメローネが湯気のたつ紙コップ片手に佇んでいる。傍から見ればやたら絵になる二人だが。
「で、ギアッチョが『ホワイトアルバム』で傷口凍らせながら切断すればいいだろなんて言うから、バカゆうな凍結させたら痛覚マヒって苦痛半減だろっつったんだけどさ」
「凍傷で自分の体が腐ってくのを見せるってのもあるがな。指とか、もそっともげる」
「時間かかり過ぎない?」
「時間をかけるのも拷問の手段のひとつだろ。俺なら手足一本につき一時間かけて切る」
 話してる内容はロクでもなかった。
「楽しそうな話してるな…」
「よぉ~」
「まぁだ電車動いてねぇのかぁぁ~~?用意してあったチケットってこれの次のやつだろ?マジで夜が明けるんじゃあねえか?いっそタクシーとかよぉ」
「タクシーつかまえたとこで高速も交通量制限中。電車の復旧待ったほうが無難」
 ホルマジオはプロシュートの横にいって、さっき駅前の売店で買った煙草のパッケージのシールをくるくると剥がした。メローネがめざとく手を差し出す。
「一本ちょうだい」
「あン?しょおがねぇなぁぁ~…銘柄に文句言うなよ?」
「うわ。これおっさんくさいフレーバーのやつ」
「はい没収~~~~~」
「ああ!」
「アホか」
「マヌケだな」
 ホルマジオにあえなく煙草を取り上げられたメローネは、こりずに今度はプロシュートの方を向く。
「一本だけ!」
「さっきので切れた」
「買ってきてやるよ。MS?」
「あんなマズイもん吸うぐらいなら雪でも食っとくぜ」
 メローネはプロシュートから紙幣を受け取って、長いホームの端にある自販機の方へ足取り軽く歩いていった。人混みにまぎれていくアシンメトリーな髪型を見送りつつ、イルーゾォはさっき買ったキャンデーの包みをばりばりと剥ぐ。
「いやしい奴。そこまでして吸いたいもんか?煙草って」
「吸いたいっつーか、習慣みてぇなもんだからなぁ~~ないと物足りねぇんだよ」
「ふぅーん」
「まさか吸ったことないわけじゃあねーだろ、おめーも」
「あるけど。別にうまいとも思わなかった」
「吸い方がよくねえんじゃねーの?吸ってみろよ」
 ホルマジオに一本差し出され、イルーゾォはキャンディをくわえたまましばし黙考して、指を差し、
「おっさんくさいフレーバー」
「つべこべ言わずに吸ってみろっつゥーのッ!おめーらそうゆうとこソックリ!」
「嫌なこと言うなよ」
 イルーゾォは露骨に顔をしかめ、それでも幾分興味ありげに差し出された一本を手にとる。プロシュートがライターを渡して、ホルマジオがイルーゾォのキャンディを取り上げた時点で、イルーゾォは気づいた。自分を囲む喫煙者2人を見る。
「おまえら楽しんでるだろ」
「ん?んん、まぁなぁ~~?」
「いいから早く吸えよ」
 結局みんなヒマで仕方ないのだ。煙草を唇に挟み、ライターを擦る。軽く吸いながら火を灯すと、先に火が移って煙が立つ。
 さて、もうそこからどうしていいか分からない。たしかに煙草は何度か吸ったことはあるが、どれも数年前の記憶で、吸い方なんてとっくに忘れてしまっている。
 なんとなく視線を泳がしていると、プロシュートが自分の頬を指し示す。
「とりあえず吸え。口ん中ためてから、肺まで吸い込む」
「すぅぅ~~~~っ……………………ぷはぁぁ~~~~~」
「出てねえよ。煙どこいったんだ?」
「ちゃんと吸ってるかぁ~?」
「よくわからん。なんかスースーする…」
「メンソールだからなぁ〜〜灰落ちるぜ」
 言われてようやく気づき、スタンド灰皿に灰を落とす。顔をあげると、煙草ケースを手にメローネが戻ってきた。イルーゾォが指にはさむ煙草を見て、驚いた顔をみせる。
「おっさんくさ」
「うるせェーッ!おめーはもう帰ってくんなッ!」
 まだ中身の入った煙草のケースを投げつけそうになるほどホルマジオをイラッとさせられるのはメローネだけだ。実際に投げはしなかったが。
「なに?煙草吸えるのか?イルーゾォ」
「そりゃ一応」
「吸えてねぇーって。こいつ吐いても煙出ねえんだぜ?体の構造どうなってんだ?」
「もういっぺん吸ってみろよ。肺までいけよ」
 プロシュートに促されて、イルーゾォはもう一度煙草をくわえてみる。さっきまでの喫煙者包囲網にさらにメローネも加わって見守られる中、言われた通り口の中に溜めて、そこから肺まで吸い込んでみた。ぐっと、気管を通る異物の感触。
「うっ…げほッ!げほ、げほッ!うえッ!!」
 苦しさに思いっきりむせて、しばらくノドを突く痛みと戦ってから、にじんだ視界を開くと、目の前で3人が文字通り腹をかかえて悶えている。
「ぶはははははははッ!!!おま、なんつーお約束なリアクションを…ッ!!ひひひッ」
「最ッ高にベネ!!」
「ちゃんと吸えたじゃねえか、なぁ…ぶふッ!!」
「…………」
 イルーゾォはつまんでいた煙草を勢いよく3人の足元に投げつけた。飛び散った灰を避けてメローネがプロシュートのコートを掴み、ホルマジオは笑い疲れてホームの柱に手をついている。楽しそうでなによりだ!

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