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世界最後の日 all


「あれ?」
 パチ、パチと何度スイッチを押してみても廊下の電気がつかない。イルーゾォは舌打ちひとつ、暗いままの廊下を突き進んだ。
 広いリビングフロアに続く扉を開けると、中も暗いままだ。冬の日の朝。暖房のためにカーテンを引いてるから余計に暗い。
 朝といっても11時過ぎだから、もう昼前といってもいい時間帯だ。たいがいこの時間には誰かいるものだが、めずらしく誰も来ていないらしい。ほとんど住み込んでる状態のリゾットとメローネも、まだ寝ているか、外出してるのだろうか。
 イルーゾォはリビングを突っ切って、物置にしている部屋をのぞいた。替えの電球電灯類の買い置きがあるはずだが、ちょうど廊下用のやつを切らしている。
「…………」
 タイミングが良いのか悪いのか、イルーゾォの今日の仕事は夜中からだ。夕方に出るつもりだが、それまでは暇であることは認めざるえない。備品補充は気づいた奴がやること。この掟を破るとプロシュートに蹴り倒される。
 しばらく腕を組んで、受け入れたくない現状に思いを馳せていると、背後でリビングの光がつく気配がした。
「なにしてんだァ~?」
 振り向くと、いかにも起きたてといった感じのギアッチョが、頭をかきながら立っている。
「いたのか。気づかなかった。寝てた?」
「あーソファでな。明け方ぐらいに仕事が終わってよォ~戻ってきてそのまま寝ちまった。おめーは?いつ来てたんだ?」
「ついさっき。ギアッチョ、悪ィが……車出せるか?」
「あぁ~?なんでだぁ?」
 寝起き特有のかすれた声で、ギアッチョが悪態をつくが、別に彼は機嫌が悪いというわけじゃない。だいたいがこんな調子だ。イルーゾォはこのチームに来て以来の付き合いだから、そんなことぐらいよく知っている。
「廊下の電灯が切れてんだよ。買い置きもねぇし、電気屋まで乗せてってくれると助かるんだが」
「ふゥ~~ン…いいぜ別に。そのかわりバールに寄るの付き合えよ。腹が減ってしょうがねえ」
「おー」
 顔を洗ってくると言ってギアッチョは洗面所へ向かった。イルーゾォは財布の中を確認してから、もう一度廊下のスイッチを押してみる。やはり電灯はつかない。玄関先だけがやたらに暗い。



 電話はたしかにメローネからかかってきたはずだ。けれど電話口の声は酩酊状態で聞き取れたもんじゃない。
「ああ?なんだって?」
『だからぁ~~いるんだけど、もうそこなんだけどさぁ、どこだっけぇ~?家、まえに鍵、あれだったろ、あれいいよなぁ……もう無理かもーー無理無理ぜったい通り過ぎた!』
「俺んちか?近くに来てるって?この酔っぱらいが」
 奇跡的に聞き取れた部分だけで状況を把握する。プロシュートは道路側のカーテンを開けて窓辺から外をうかがった。こっちに背中を向けてぶらぶら歩いてる、アシンメトリーの金髪が見える。
「そっちじゃねーだろ、回れ右しろ。モスグレーの壁の建物だ。いや、もういいからそこにいろ」
 電話で指示するのをあきらめ、プロシュートは一旦携帯をサイドテーブルに置いてクローゼットにコートを取りに向かった。一瞬とはいえ、シャツ一枚で外に出るのはさすがに寒い。
 しかし予想を裏切ってその間に、酔っぱらいは目的の玄関に到達したらしかった。
 ブー!と呼び鈴が鳴る。
 玄関の覗き穴をのぞくと、すぐ間近に金髪の丸っこい頭が見える。扉にもたれかかってるらしい。
「おい」
 扉を開けるとメローネがべったりもたれかかってくる。手足もぐにゃぐにゃで、支えてやらないと立ってられない程らしい。
「おい、重いぞ。立て」
「…………」
「メローネ?」
「………かあさんが汚いって、『気持ち悪い』って…ぼくのこと……」
「なに?」
 うなだれるメローネの顔をのぞきこんで、プロシュートは息を吐いた。酒じゃない。ドラッグだ。
「何やったんだ。コークか」
「………」
 会話をするのはあきらめて、プロシュートはメローネを引きずって部屋の中に入れ、そのままベッドに転がした。服を着たままだが寝苦しければ自分で脱ぐだろう。プロシュート自身はソファーに毛布を持ってきてそこで寝た。元から仮眠ぐらいのつもりだったから別に支障はない。



「どこだかわからねえ薄暗い中を、何かに追いかけられて、必死で走るんだが、どこまで行っても終わりがなくてよォォ〜〜けっきょくフッとあきらめた時に、いつも目が覚める……終わりが怖いというより、終わりがねえのが怖ぇんだな。終わりがねえんじゃねえかって思ってる。いつも」
「…なんに対してだ?」
 リゾットが向かいの席に座るホルマジオに目を向けると、ホルマジオは体を伸ばして窓際の灰皿に煙草の吸い殻を落とすところだった。ボロボロと黒いカスが積もる。
「なんにっつうか、生活全般じゃねーかな?暮らしてくこととか、日々とか、仕事とか、いろいろ?」
「意外だな」
「そうか?まぁ俺は悩みなんかなさそーってよくゆわれるしなぁ〜」
「そうゆうんじゃねぇが。日常について後ろ向きに感じることがあるのが意外だ」
「普段は考えねぇんだがな、そんなこと。悪い夢見だったときは、どうしてもよォ」
 6人席のコンパートメントは2人分の紫煙でやや曇っている。透明ガラスで仕切られてるから余計だ。時折通路を車内販売の店員がカートを引いて通るぐらいで、列車内に人の気配は薄い。
 あと数時間で今年が終わり、新年が明ける。車窓から見渡す街は華やかなイルミネーションに彩られ、新年へのカウントダウンとともに花火も打ち上げられるだろう。
「人間ってのは擦り切れちまうからな…気づかねえうちに、ギリギリのラインに立ってる。酒や煙草やドラッグで一時的に逃げれたとしても、終わりのねえことへの恐怖は消せるもんじゃあない」
 ホルマジオは煙草ケースを叩いて新しい煙草をくわえる。ライターを擦るが、なかなか火がつかない。
 リゾットが自分のライターを差し出して火を灯した。ホルマジオはくわえた煙草の先を寄せる。火種がうつって、体を離し一息吸ってから、グラッツェ、と笑う。
「俺はよぉ、わりと平凡な夢をみてえんだ」
「たとえば?」
「笑うなよ?」
 うん、とうなずいたのにホルマジオは「ほんとだな?ほんとにだな?」と繰り返し確認してくる。あんまりにも念を押してくるから、おもしろくなってきてしまって、リゾットは煙草をもった手で口元を隠した。笑ってしまってる自覚があったからだ。
「おめー笑ってんじゃねーかよスデに」
「いや……悪い」
「あ、あと他の連中にも言うなよ?ギアッチョとかプロシュートとかよォ…メローネも確実に鼻で笑いそうだからな」
 言えば言うほど妙に期待値が上がってしまって笑えてくるのだが。ようやくホルマジオは気を取り直して話す気になったらしく、咳払いをひとつ。
「家に帰ったら…いやその前からだな。車をガレージに入れたら、家から光が漏れててよォ、俺が玄関を開けたら、キッチンから声が聞こえて、たっぷりといい匂いのする廊下を歩いていけば、キッチンから出てきた女からキスとハグでお出迎えだ……おい。リゾット」
「続けてくれ。俺にかまうな」
「おいッ!顔上げていえよせめてッ!肩震えてんだよこの野郎ッ!」
 ホルマジオが足でリゾットの座る座席をゲシゲシと蹴りつけてくる。
「悪い。馬鹿にしてるんじゃねえんだ。ただちょっと…笑えて」
「それが馬鹿にしてるっつぅーんだろォーがよォ、ええ?」
 口を尖らせてホルマジオはそっぽを向きながら紫煙を吐く。片手で顔を覆ってうつむいていたリゾットが復活する頃にようやく、ホルマジオは灰を落として言葉を継いだ。
「やっぱりよォ、経験ないと余計に憧れるっつぅか。俺んちはいつも真っ暗だったからな。光がついてると、安心するだろ?単純に…ただ、そうゆうことだ」
 列車の、ガタンガタンと揺れる音。時々行き交う人の気配。車窓の向こうに広がる、夜の景色。ハッピーの詰まった光の世界。
 バタバタと聞き覚えのある足音が近づいてきて、コンパートメントの扉が開いた。顔をのぞかせたのはペッシだ。
「予定通り、あと10分で着きやすぜ。ターゲットが動き出したみてえだ」
「おっし、じゃあ行くかぁ」
「『ビーチボーイ』は仕掛けたか?」
「うん、緊急停止ボタンに」
 ホルマジオとリゾットが立ち上がると、ペッシは不思議そうな表情で2人の顔を眺めた。
「なんかあったのかい?」
「うん?いいや、なんでもねェーよ」
「仕事が終わったら話してやる」
「おいリゾット」
 見ればリゾットの肩はまだ震えている。思い出し笑いか。おめーは幸せな奴だな仕事前だっつぅーのによォ!とホルマジオがリゾットの背中を叩くと、喧嘩はしねぇでくだせえよとペッシがとんちんかんなことを言う。
 コイツにぐらいは教えてやってもいいかもしれない。なんせもうすぐ21世紀が始まるのだ。あと数時間で西暦2000年は終わる。新しい年には新しい夢を見たい。
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