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見知らぬ国 all


 ホワイトアルバムを解除しながら扉を開けて出てきたギアッチョはため息を放った。
「ありゃあ完璧に『風邪』だ」
「……『風邪』だと?」
 ダイニングテーブルに腰かけていたプロシュートが、ことさらゆっくり言葉を返した。それだけで、フロアの空気がピンと張る。誰もが、次にプロシュートが発する声に全神経を傾けた。
「イルーゾォ!今すぐリゾットの部屋の鏡に潜んどけ!ペッシ、おめーの『ビーチボーイ』でリゾットの野郎を釣り上げて壁にでもブチ当たらせろ!イルーゾォは奴の血液を採取!メローネ、『ベイビィフェイス』を待機させとけ!」
「おいおいおいおい待て待て待てェェェッ!!!??」
 ギアッチョの制止むなしくすでに指示を出された全員が動きだしている。唯一この場にいないホルマジオならギアッチョの味方についてくれたかもしれないが、残念ながら薬局へ買い出し中だ。
「風邪だっつってんだろォーがッ!?なんだその対応はよォ!?」
「ギアッチョ、落ち着け」
「そりゃこっちのセリフだクソがァーッ!!」
 メローネの言葉にいっそうブチギレたギアッチョが思いきり蹴りあげたマガジンラックは見事にペッシに命中した。ヒィッと悲鳴をあげペッシは発動しかけたスタンドを手放してしまう。
「おいペッシよォ…スタンドは敵に喰らいついても絶対に解除するんじゃねえってなんべん言ったらわかるんだこのマンモーニッ!!」
「ひいいいッ!!ご、ごめんよォ兄貴ィイイ!蹴らないでくれよォォ」
「だからなんで『ビーチボーイ』でリゾット釣ろうとしてやがんだテメーら話を聞けエエエエッ!!!」
 すっ転んだペッシを足蹴にしていたプロシュートが、ようやくギアッチョの方を向いた。ごく真面目な顔つきで。
「なにを騒いでやがるんだてめえは」
「おまえそのッ、俺が頭おかしいみたいな言い方はやめろ!!なんでリゾットが風邪だっつったらそんな、血液採取しておまけにメローネの野郎の変態スタンドまで出てくんだよ!おかしいだろォーが!」
「変態は余計だろー変態はぁ」
「馬鹿かおまえ。あのリゾットだぜ?あいつが風邪菌なんぞにやられるわけがねぇだろーが。新手のスタンド攻撃に決まってる。あるいは本当に風邪だとしたら、あの野郎がぶっ倒れるぐらいだ、全人類が滅亡の危機に陥る未知のウイルスと思うべきだろ」
「ボケか?それはボケなのか?ツッコミ待ちなのか!?」
「さすが兄貴ッ!非の打ちどころのない判断力ですねッ!」
「風邪菌は許可しないぞ」
 ギアッチョは頭を抱えた。なぜチーム内で唯一良識があるといえるホルマジオに薬局への買い出しを頼んでしまったのかと。しかし他の連中にたのんだところで、ろくな薬を買ってきそうにない。やはり人選はまちがえてなかったはずだ。だとしたら今のこの状況は必然か。運命か。
「クソッ、これもそれも考えたらリゾットのヤローが風邪なんか引くから悪ぃんじゃねーか…あいつが風邪なんか引かなけりゃ、この俺がわざわざ『ホワイトアルバム』で氷のう作ってやったり、コイツらがわけわかんねーこと言い出したりもしなかったはずじゃねーかよォ…ナメやがってチクショォーイラつくぜッ!クソクソクソッ!!!」
「やべェーギアッチョがキレたッ!」
「おいイルーゾォ、俺も鏡の中に避難させてくれよ」
「来んな変態!」
「ゲッ、兄貴、ギアッチョのヤツ本気ですぜい!」
「うるせェッ!!てめーら静かにしやがれ病人が寝てんだろーがァ!!!」


 下のフロアが破壊つくされようとする頃、上のフロアの一室では男がひとり、ベッドに倒れ伏して荒い息をくり返していた。
(最近ヒマだからって力持て余してるなアイツら…いっそこの建物ごと倒壊しちまえば奴らもちょっとは静かに…ダメだ今はまともな思考が働かねぇ…)
 リゾットはれっきとした風邪だった。昨日から妙に鼻炎ぽかったが、花粉かなんかだろうと油断していた。今日になって扁桃腺がパンパンに腫れ、せきにくしゃみのオンパレード、ついでに微熱もある。誰がどうみても立派な風邪だった。
「はぁー……」
 熱い息を吐いて寝返りをうつ。熱のせいで汗をかいて気持ち悪い。風呂に入りたいがそんな体力もない。せめて思いっきり寝たいわけだが、階下からは絶えず騒音が響いてくる有り様だ。騒音で済んでるうちはまだいい。そのうち本当に建物自体が破壊されかねない。
「いやー下はえらい騒ぎだぜ。よぉリーダー、生きてるかぁ?」
 ささやかな声に顔を上げると、窓枠に猫がのっている。やわらかそうな毛並みから、人さし指ぐらいのホルマジオがひょいと現れた。
「どうも階段使っては無事にここに辿り着けそうになかったんでな、いろいろ救援物資もってきてやりたかったんだがよぉ、悪ぃな。とりあえず薬」
「ああ…」
「下の様子、どんなか聞きたいか?」
「あとにしてくれ…余計熱があがりそうだ」
「ちがいねぇなぁ」
 だははっとホルマジオは気楽な声で笑うが、本来ならリゾットの次に古参のホルマジオが連中の騒ぎを止めるべきところだ。言ったところで本人は「俺があいつらにかなうとでも思うのかよ」とやはり気楽に笑うので、言うだけ無駄である。
「ま、あいつらはあいつらで、おめーの心配してんだと思うぜぇ?建物だとか経費だとかの心配はしてねえだけで」
 余計な一言を残してホルマジオは猫の背中に乗ったまま去っていった。
 ベッドサイドに薬局で仕入れてきてくれた薬が何種類か置かれているが、どれがどの効き目でとかも考えられそうにない。リゾットは這いずるように薬の入った袋に手を伸ばし、手当りしだい錠剤をつかんで水で流し込んだ。扁桃腺が腫れてるせいで、ノドが締まってるような違和感があって、水さえも通りにくい。えずきながらなんとか飲み込んで、またベッドの中に潜り込んだ。階下からの騒音に負けず、とにかく寝るしかない。


「なぁ、風邪ってどんなかんじだ?」
 ソファの背に長い髪をなつかせてるメローネを、ギアッチョは新生物を発見したみたいな奇妙な顔をした。
「…まさかテメェ…風邪になったことねーのかよ」
「ないよ。だって風邪って明確に定義されてない病気だろ?そんな得体のしれない病気かかったことない」
「テメーは生涯、性病ぐらいにしかかかんねーんだろーよ。病原体のほうが嫌がるぜ」
 ブツブツ言いながらギアッチョはキッチンへ消えてしまった。遊ぶ相手をなくしたメローネは、一人がけのソファにだらしなく寝転がったまま首を巡らし、次の標的を定める。
「なぁペッシ、おまえは風邪になったことある?」
「えっ…」
 たまたまメローネの目の前を横切っただけのペッシは明らかに硬直した。実のところペッシはメローネが苦手だ。苦手というか、会話が円滑に行えたためしがない。
「えっと、風邪?たぶん、あると思うけど…」
「たぶん?あると?思う?なにそれ?おまえの体のことだろ?」
「あっあっ兄貴が!こないだ、引いてましたよねッ、風邪!」
 助けを求めて振り向くも、プロシュートは一瞬ペッシらの方を一瞥しただけで、声ひとつ返すことなくキッチンへと向かってしまった。まったく興味のかけらもなさそうである。
「兄貴ィイ〜!待ってくだせぇよォ〜ッ!!」
「おいマンモーニ、話は終わっちゃあいないぜ。プロシュートが風邪引いてたって?いつのこと?俺がスイスに出張行かされてた間?どんな風だった?期間は?症状は?処方された薬は?予後の様子は?」
 メローネに暇つぶしの標的としてロックオンされたらペッシごときじゃ逃げられない。いつもなら助け舟をだしてくれるホルマジオやギアッチョはこの場にいない。見かねたイルーゾォが、ペッシを鏡の中に逃げ込むのを許可するまで、質問攻めという名のメローネの攻撃は続く。


「氷枕か?」
 背後の気配には気付いていたがずっと無視していたギアッチョに、それでもプロシュートは臆することなく声を投げてくる。まぁ、この男が何かに臆したり、ひるんだりするところなんて、ギアッチョは出会ってこのかた見たことがない。
 流し台で洗面器を水洗いしていた手を止め、ギアッチョは一旦肩ごしに背後のプロシュートを睨みやった。睨んだところでプロシュートはいつものプロシュートのままそこにいる。腹立たしい。さっきの騒ぎはふざけてやったことだろうが、この男は自分の発言や言動の影響力のでかさを理解していないのだ。ギアッチョにはそれが腹立たしい。
「…熱が下がったら吐き気がするかもしんねーから、洗面器置いといてやろうと思ってよ。あと、ペットボトルに飲み水。熱ある時とか吐いたらノド渇くし、水分いっぱいとんねーと治りも悪いだろうからな」
「へえ」
 それ以上なにを言うでもなく、プロシュートはギアッチョの横に並んで、空のペットボトルにミネラルウォーターを入れだした。
「………」
「………」
 男二人、無言で台所に並ぶ姿は、はたから見れば妙に滑稽な図だ。


 体調が悪い時には、決まって故郷の夢を見る。濃いエメラルドグリーンの海岸線、丘に揺れるレモンやオレンジの鮮やかな実り。礼拝堂のモザイク壁画の前で、リゾットは膝をつき祈りを捧げている。大理石の合間からのぞくキリストは、感情のないまなざしを降り注いだ。まだリゾットが祈る言葉をもっていた頃の記憶だ。神や運命が無慈悲だと、リゾットはもう知っている。
 目を開けて、夕闇に染まった天井を見る。なぜここが故郷のクリーム色の壁で仕切られた自分の部屋じゃないんだろうと思って、数度まばたいた。そうだ、夢を見ていた。意識が幼い頃に戻っていた。今いるのはシチリアじゃない。イタリア本土のある街のある一室だ。
 ゆっくりと体を起こす。熱で汗をかいて服が湿っている。そばの鏡台にミネラルウォーターのボトルや小ぶりのオレンジが並んでいた。イルーゾォが鏡を通って持ってきれくれたのだろう。ボトルを一本手に取り、渇いた喉に流し込む。扁桃腺の違和感は、まだ抜けていない。
「…げほっ」
 吐いた息から熱っぽさはなかったので、微熱は下がったらしい。前髪をかき上げて額に手のひらをそわせると、指先の方がぬるく感じる。
 そのまま少しの間、目を閉じていると、扉の前に気配が立つ。開いた扉の隙間から、メローネが顔をのぞかせた。
「リゾット、起きてる?」
「ああ。…どうした」
 部屋の電気はつけないまま、メローネはベッドサイドまで歩み寄ってきた。手にした紙を差し出してくる。
「組織からの指令」
「……」
 受け取った書類に一通り目を走らせ、また無意識に息を吐く。ちょっとした動作でものすごく疲れるのは、ろくに物を食べていないせいだろう。薄い暗闇の中、ベッドの隅に腰をおろしたメローネを見る。
「今、誰がいる?」
「みんないるよ。あープロシュートとペッシが買い物に出てるけど」
「プロシュートが戻ったらこれを渡しておいてくれ。人選はまかせる」
「了解」
「あと、」
「ん?」
 書類を手に立ち上がりかけていたメローネが振り返る。
「みんなに伝えておいてくれ」
「…何を?」
「外から帰ったら、うがい、手洗い…」
「はいはい了解」
 一瞬神妙な顔になりかけたメローネだったが、リゾットの言葉に呆れたように笑って「早く良くなれよ、リーダー」と言い残し部屋を去った。それを見送って、リゾットはまたベッドに潜り込んだ。
 目を閉じるとやわらかい暗闇に沈む。体調が悪いと万事良くない。心も弱る。体内でメタリカたちのざわめきを聞く。帰ることのない場所を夢見る。
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