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祈りの夜にて r.p.h


 ホルマジオは顔を上げて壁にかかった時計を見た。夜の10時前。
 たしか8時ぐらいに、プロシュートに煙草の買い出しを命じられたペッシが部屋に入ってきて、プロシュートが「グラッツェ、そこに置いとけ」と言って以来、誰も口を開いていないから、かれこれ2時間近く黙りっぱなしということになる。
 顔を上げたついでに、肩や首をコキコキ鳴らす。普段やり慣れてないデスクワークのせいで、あちこちの筋肉がこり固まっている。ったく、しょおがねぇなぁ…。口の中で呟いて、ホルマジオは新しい煙草を一本くわえた。
 月に一度、溜まりに溜まった報告書やら始末書やらを、リゾットとプロシュートとホルマジオ、年長組三人で徹夜して片付ける。事務デスクを突き合わせ、パソコン3台持ち込んで、山と積まれた書類仕事をすべて終わらせるまで寝れも休めもしない。やってもやっても一向に減らない紙の山と、積載されつづける煙草の灰。この時ばかりはリゾットもニコチンを摂取する。いつもは匂いがつくのを嫌って吸わない。
 三者三様、灰をまき散らしながらパソコン画面と向き合ってすでに5時間。
 あたりには紙の擦れる音とタイピング音と紫煙を吐く音しか聞こえない。
「…………」
 カタカタカタカタ
「…………」
 ガサガサ…ガサ…
「…………」
 カチッカチッ……フーッ……
 …………
 ガンッ!!ガタガタッ
 決まっていた雑音のリズムの中に突然、騒音が投げ込まれた。
 プロシュートが一度デスクを蹴飛ばしてからすごい勢いで立ち上がったらしい。なぜデスクを蹴る必要があったのか。
「オイオイオイオイオイ」
 立ち上がった勢いそのまま、上着を引っかけて部屋を出ていこうとするものだから、ホルマジオはすかさず声を上げた。
「あ?」
「あ?じゃねーよ。どこへ行く?」
「気晴らしにちょっと散歩だ」
「オイオイオイオイオイ、オイ、嘘つけよォ〜ぜってェおめー帰ってこねえつもりだろうがよォ」
「そうかもしれねぇな」
「なぁに堂々とエスケイプ宣言かましてくれてんだ、ったくよォ〜〜おいリゾット、なんでもいいからコイツ止めてくれや」
「手段は問わないんだな」
「ちょっと待て待て、なんかイヤ〜な予感がするぜ?」
 煙草をくわえたまま普段の3倍ぐらい凶悪な目つきで顔をあげたリゾットを見て、ホルマジオはとたんに待ったをかけた。完全に仕事モードの顔だ。暗殺者の表情。プロシュートが半殺しの目にあうのは自業自得なのでかまわないが、今、デスクをはさんで三人はかなり近い位置にいる。メタリカの二次被害をホルマジオまで食らいそうだ。
「いい案を思いついた」
 プロシュートが軽快にパチンと指を鳴らした。この男もさすがに空気を読んだか、それともやはり読む気などさらさらないか、さぁどっちだ。
「みんなで散歩に行きゃあいいんじゃねーか」
 やはり読む気はないらしい。さすがだ。
「それなんにも解決になってねーぞ?ええ?」
「名案だ」
「マジか?」
 立ち上がったリゾットを見上げ、ホルマジオは「マジか、マジなのか」と思わず天を仰いだ。そこにあるのは薄汚れたアパートの天井だけだが。こういうくだらない事において思いのほかこの二人の息が合う事がたびたびあるのは、一体どういったわけなのか。普段は特別仲が良いわけでもないのに変なやつらだ。
「暗殺者が仲良く散歩ってどーよ?」
「いいじゃねえか。夜は俺たちの時間だぜ」
「吸血鬼かよォーてめーは」
 ホルマジオとプロシュートが言い合ってるうちにすでにリゾットはロングコートを羽織っているし、プロシュートはマフラーを巻いたうえ手袋もはめ出している。本気の防寒具じゃねーか。どこまで散歩いく気だ。
「ったくしょおがねぇなぁ〜付き合ってやるぜ」
 仕方なしの振りをしつつ、ホルマジオもダウンを羽織ってポケットに煙草ケースを突っ込んだ。リゾットにつづいて部屋を出かけていたプロシュートが顔だけ振り向いて口の端で笑っている。どうせハナからいっしょにサボる気まんまんだったんだろーが、とその目が言っている。ホルマジオは明後日の方向をむいて口笛をふいた。

「うおお〜!やべえ寒ぃ!」
 いうまでもなく外は極寒だった。空気という空気が何かのスタンド攻撃かと思うほど身を切る冷たさだ。夜空は冬特有の澄み切った藍色に無数の輝きを載せた美しさだが、はっきりいってそれどころじゃない。寒い。
「寒いな。これは寒い。おもった以上に寒い」
「おお、寒ぃぜリゾット、メタリカでストーブかなんか出してくれよ」
「ストーブあっても電気か灯油がねぇと使えねーだろうがアホマジオ」
「ストーブか…作るにはかなりの鉄分が必要だろうな…」
「試すなよリゾット。俺とホルマジオが酸欠か失血で死ぬ」
 ホルマジオとプロシュートはほぼ同時に煙草に火をつけた。口から吐く白は息が紫煙かわからない。歩くたびにギュッギュと雪が鳴った。景色一面、白に包まれた夜の街はおだやかな静けさだ。
「思うが、なんでうちのチームにゃ火を使うスタンドがいねーんだ?鏡とか子作りとかよぉ、変な能力ばっかじゃねぇか」
「人を勝手にジイサンにしたりな」
「鼻からハサミ出したりな。どこの大道芸かと思うぜ」
「ハイハイ、おめーらはどっちもどっちだから睨み合うのはやめろ」
「ギアッチョが来た時、最初おまえが教育係だっただろう。あれは今でも思うが大失敗だった」
「まったくだな。リーダーともあろうもんが、とんだ人事ミスだ」
「俺が夜帰ったらマジでアジト半壊してたもんなぁ、空襲でもあったのかと思ったぜぇ?」
 ホルマジオが宙に向かってぽかりと浮かべた紫煙が、やわらかい丸をえがいて夜空へ吸い込まれてゆく。
「そう考えるとペッシの奴はすげーな、まだまだマンモーニだけどよぉ、弱音吐かねぇだろ」
「ハン、これぐらいで弱音吐いてちゃあ一生使いモンになんねーよ」
「いやおめー自分の厳しさ自覚しろよ?アイツたまにおめーに蹴られすぎて顔面クレーターみたいになってっからな」
「でも甘いところもあるだろう。自覚してるかしらんが。ペッシはまだ自分の手で殺しをやったことはない」
「マジかよ?」
 リゾットの言葉を受けホルマジオが視線をやると、プロシュートは眉をひそめてしかめっ面をつくっていた。
「たまたまだそんなもん、甘やかしてるわけじゃない」
「なら次の任務はペッシにやらせろ。そうゆう仕事をまわす」
「お気遣い痛み入るぜ。おいホルマジオ!妙な鼻歌うたってんじゃねえ!」
「俺じゃねーよ、八つ当たり反対ィ〜」
 黙ってみると確かにかすかな歌声が聞こえる。道には人影ひとつないから、どこか建物の中から漏れ聞こえてるのだろうか。
 町中の小さな教会の前を通りがかって、ようやく気がついた。薄く開いた教会の扉からは、あたたかな橙色の光と人々の祈りの声があふれだしている。ミサだ。それも、今日は特別な日のミサ。
「ああ…そうか」
 小さく呟いたリゾットのとなりで、プロシュートが白煙を吐く。
「ローストチキンでも買って帰るか」
「店なんか開いてねぇだろう、クリスマスの日によぉ」
「そのへんに鳥小屋ないか?」
「おいリゾット、マジか。マジなのか?」
 人間は容赦なく殺すのに動物には妙にやさしいホルマジオだ。やさしいくせに猫を瓶詰めにしたりするが。
 教会の角をぐるりと回り、来た道を戻る。足は自然と、帰る場所へ向いている。
「隣人を愛しなさい、敵を愛し、あなたを迫害する者のために祈りなさい」
「いい言葉だ。なんかの詩か?」
「さあな。昔ドラッグキメてる女が背中に彫ってた」
「おめーらにいいことを教えてやろう。そりゃ神の教えってやつだ」
 暗殺者にこそ神や祈りが必要だ。都会の空にこそ星のまたたきが必要なように。
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