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もう海になんていかない r.m


 その時メローネは濃いコーヒーが飲みたいとおもった。
 いつも篭ってる自室を出て、階段を降りたら、リビングのソファで母親が見知らぬ男の上に乗っかってアンアン鳴いていた。いつものことだ。メローネはリビングを素通りしてキッチンへ足を向ける。娼婦をやめたって母親は男を連れ込むのをやめなかったし、父親は妻の不義理を責めようとせず、ただ妻と家庭から距離をとりつづけた。そんな夫に当てつけるようにして、女はまた道ばたの男に声をかけ抱いてと乞う。いつものことだ。
 インスタントのコーヒー粉に湯だけそそいだマグカップを持ち、キッチンを出た時、メローネの耳に聞き慣れないか細い悲鳴が届いた。
 喘ぎでも絶頂でもない、女の声だった。目をやると、さっきと逆に男が母親の体に乗り上げ、両手で首を締めている。プレイの一環かとおもった。でもちがった。母親はそのまま、目をひんむいて絶命した。細い指が首を締めてくる男の腕にからまり、いくつも引っ掻き傷をつくっていたのを、メローネはよく覚えている。
 メローネはキッチンに戻って、濃いコーヒーの入ったマグを置き、かわりに果物ナイフを持った。それで、気がついたらシンクで、血に染まった真っ赤な両手を洗っていた。
 手にからみついた二人分の血は、水に薄められながら大量に流れていった。排水溝に幾筋も、長い髪が詰まる。あとから当時の新聞を読んでメローネ自身も初めて知ったことだが、男の死体は顔もわからぬメッタ刺し、女の死体はパズルのように均等に断裁され分解されていた。メローネのやったことだ。貧しいスラム街の一角で起きた、悲惨な、でもありふれた話。いつものこと。メローネは初めて人を殺した時より、その後、濃いコーヒーの入ったマグを持って階上に上がり、自分の部屋でパソコンを開いた時の方が、よほど記憶に残っている。


 海に面した街での仕事だった。メローネは波除けのコンクリートの上に立って、漫然と砂浜の白さを眺めていた。夏は観光客のあふれるビーチなんだろうが、オフシーズンの今、浜辺にはヤドカリ一匹見当たらない。でもメローネは視力がいい方じゃないから、本当にヤドカリ一匹いないかどうかはわからない。
「Excuse me」
 振り向くと、恋人同士らしき若い男女が、明るい笑顔でメローネを見ていた。
「Would you take a picture?」
「Sure」
 差し出されたカメラを手にし、メローネはレンズを観光客らしき彼らに向けた。二人は肩を寄せあい、互いの腰を抱く。女の、長くやわらかそうな髪が潮風にふくらんだ。
 一度シャッターを押して、カメラを返す。男の方が手を伸ばして、受け取った。
「Thanks」
「You're welcome」
 男が女の肩を抱いて、二人は見つめあいながら海岸沿いの道を歩いていく。メローネはその後ろ姿を見送りながら、視界にちらちらと入る自分の長い髪が邪魔だなとおもっていた。ミルクティーみたいなくすんだ金髪。母も父らしき男も髪は深いブラウンだったから、メローネのそれは隔世遺伝なのかもしれない。
 遺伝は重要だ。それが人生の半分を決める。メローネはそうおもっている。
 さっきの二人はアメリカ人だろうか。ブリティッシュイングリッシュではなかった。
「俺はもう帰るが。おまえはまだいるのか、メローネ」
「……」
 長い髪を耳にかけると、開けた視界にリゾットの姿があった。海と、空と、リゾット。普段なら笑ってしまうほど似合わない取り合わせだけど、冬の灰色がかった空と暗い海は、漆黒の暗殺者によく似合う。
「Where there is no love, there is no sense either」
「…なんだ?」
「愛なきところに良識なしって意味さ。リゾット」
 あまり英語が得意とはいえない我らのリーダーは、特別興味もなさげにフンと鼻を鳴らしただけで、きびすを返してしまう。メローネはゆっくりした足どりでその後を追った。
「裏返せば良識のないヤツは愛を与えられなかったってことになる。俺らのチームで、誰かひとりでも良識のあるヤツがいるか?残念なことに、みんなない」
「その代表がおまえだろうな」
「そうだよ。だから俺は『ベイビィ』を育てるのが上手なんだ。愛を知らない子供が育てた子供。だけど彼らは学習する。いずれ愛というものを知るかもしれない。知ったら求めるかもしれない」
「そんなのがいたのか、今までに、おまえのスタンドで?」
「ああ、マードレってなんだ、マードレに会いたいって言ってたやつはいたな」
 冷たい潮風を横殴りに受け、目の前を行くリゾットの髪がバサバサとなぶられている。リゾットの髪はしろがねに近い、鉄のようににぶい色。それはどんよりとした冬空によくなじんで、不穏な光景をつくりあげていた。切り裂けば、赤がにじみでるその不穏さ。
「スタンドを解除すれば『ベイビィ』たちは消滅する。たいていは、そんなことさえ気付かずみんな消えてくけど、中には、学習するのが早かったり、『母親』の素質によって、『死』だとか、『愛』だとかを認識するやつもいる。知ってるかい、リゾット。ひとってのは愛を知るから死を恐れる。愛を知らなければ死など恐れない。俺のスタンドにもっとも不必要なものだ…『愛』」
「たしかに良識などないほうがこの仕事には向いてる」
 その意味でおまえは100点満点だメローネ、とこちらを振り向くこともなくリゾットが言ってのけるから、メローネは唇に薄い笑みをはりつかせた。この、暗殺のために生まれたスタンドをもつ組織随一の暗殺者に、100点満点をもらうなど、誇らしい以外のなにものでもない。
 長い髪を押さえつけ、耳にかけて、メローネは目を閉じる。髪の色は、親からの遺伝じゃない。目が悪いのは、母からの遺伝だ。ブリティッシュイングリッシュは、父譲りだ。だからアメリカンコミックやアメリカ産のアニメを見るギアッチョとは、時々互いの英語を馬鹿にしあう。
 愛がなければ良識など育たない。良識とはなにかと問われたらメローネはうまく答えられないが、少なくとも良識あるひとなら、自分の母親の死体を細切れにしたりはしないんだろう。メローネはギャング仲間からも異常者と呼ばれる。そのとおりだ。メローネは、自分を正常だといいきれるほど傲慢じゃない。スタンド能力にしたって、ホルマジオやギアッチョのように、素直なものじゃない。
 顔をあげる。人通りのない海岸沿いの道に、リゾットがぽつんと立っている。どうしたという風な顏して、こっちを振り向いている。
 メローネは笑みを見せた。それからさっき以上にゆっくりと、リゾットの元へ向かう。
「どっかに寄らない?リーダー。濃いコーヒーが飲みたい」
「おまえはエスプレッソよりコーヒーをよく飲むな」
「ひとを殺したあとはとくにね。飲まないと落ち着かない。行こう」
 メローネが、自分の方を振り向いてくれる人を手に入れたのは、ここ最近だ。それまでは誰もがメローネを、怪訝な顔して通り過ぎるか、見ないふりをした。愛を与えようとしなかった。
 初めて海を見たのは、初めて人を殺した、あのあと、開いたパソコンのインターネット上で。家を出るなら海にいこうとおもったのだ。死のうとおもった。罪悪感でも後悔でもない。ひとを殺しても揺らぐことが一切ない自分を変えるには、死ぬしかなかった。
「海なんか嫌いだ」
「なぜだ?」
「潮風ってしょっぱいだろ。髪も服もべたべたになるし」
 冬の海に溶け込むリゾットがうらやましい。髪色は親の遺伝がよかった。悪い部分しか遺伝していない。
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