キッチンの換気扇の下でお茶と紫煙をたのしむ会を催していたら、リゾットが階段を降りてきた。
「コーヒーか」
「いや。スコティッシュブレンドのティー」
「あんたもいるかァ?」
「いや、いい」
「おめーカフェインばっかとってねぇでたまには他のモンも飲めよ」
煙を吐きながら視線を寄越してくるプロシュートに、リゾットも皮肉をこめて見返す。
「おまえこそ少しニコチンとアルコール摂取を慎んだらどうだ」
「ああ?我慢したとこでなんかいいことあんのか」
「ない。だから俺も我慢せずコーヒーを飲む」
コーヒーメーカーに手を伸ばすと、床にしゃがんでいたメローネが少し体を避けてくれる。その横でシンクにもたれかかって立つプロシュートと、壁に寄りかかっているホルマジオ。全員が片手に湯気のたつマグカップと煙草をたずさえている。
「…なんかの集まりか?」
インスタントコーヒーの缶のフタを回しながら聞くと、足下のメローネが見上げてくる。
「煙草とティータイムを楽しもうの会」
「英国紳士っぽいだろ?」
イヒヒと笑うホルマジオに、プロシュートが「どこがだ」と冷めた目を向ける。
「会費は?」
「ない。煙草は実費。茶葉はその時々で誰かが見繕ってくるんだ」
「良心的な会合だな」
「ホルマジオはよく茶葉を買ってきてくれるけど当たり外れがある。プロシュートは味にうるさい」
「こいつは買ってこねぇくせにもっとうるさい」
「そーだぜェ、苦いだの臭いだの文句多すぎだオメーは。ひとがせっかく選び抜いて買ってきたっつーのによォ」
「しょうがねぇだろ、この中じゃあ俺が一番薄給なんだ」
メローネは煙を吐いて口をとがらしている。紅茶の湯気と煙草とで、キッチンの景色が白く靄がかって見えた。古いフランス映画みたいだ。それよりリゾットとしてはメローネの発言にツッコミを入れないわけにはいかない。
「経験年数で給料の差はないぞ。純然たる歩合制だ」
「歩合制ってよォ~まさかヤッた人数とかじゃあねーよなァ?」
「だとしたらプロシュートに勝てるわけない。不公平ー」
「スタンド使うたびに毎回関係ねー女犠牲にしてるやつが何言ってる」
コーヒーメーカーに水をそそぐと、コポコポ音が鳴る。抽出されたコーヒーが雫となって落ち、ガラス容器に溜まっていくさまを見るのが、リゾットは好きだ。ほっとかれたらすべてドリップしきるまで見てていられる気がする。
「毎回殺すわけじゃあないぜ。双子の姉妹を母親に選んだ時、『ベイビィフェイス』はどっちが自分の母親か見分けられなかった。一卵性で遺伝子情報がまったく同一だったんだ」
「殺さなかったのかァ?」
「片方殺して片方生かした。いい『ベイビィ』だったからな、同じ遺伝子なら同じ『ベイビィ』が生まれるはずだと思ったんだ」
「結果は」
「ブー。それが全然ダメ。変だと思わねーか?遺伝子上は同じはずなのに、同じ『ベイビィ』には育たなかった」
「育て方が悪かったんじゃあねーの。おめーは教育者には向いてねぇ」
「そうだぜェ〜やっぱ教育論ならプロシュート先生に聞けってな。こいつのアメとムチの使い分け、マジ神がかってるからなァ」
「ふゥーン。俺は育てられるならリゾットがいいな。放し飼いしてくれそうだ」
いきなり話の矛先を向けられて、リゾットはドリップするコーヒーの雫から目を上げた。白く濁ったキッチンに座り込むメローネ、シンクにもたれかかるプロシュート、換気扇の下のホルマジオが、それぞれリゾットを見ている。
「リーダーが『親』ねェ〜〜…まぁ、『父親』には向いてそーだな」
「放し飼いっつーかこいつ自身が犬属性だろ」
「強いし頼りになるし、プロシュートほどうるさくないし、ホルマジオほどオッサン臭くないし。…イテェッ!!」
一言多いメローネは、プロシュートに頭をスパンとはたかれて、ついでに蹴りも一発食らう。これ以上ない自業自得だ。
「蹴らなくてもいいだろ!頭はたいたんだから!」
「そっちは俺の分。で、蹴りはホルマジオの分」
「ヒュ〜♪さっすがプロ兄ィ」
「リゾット、この暴君をなんとかしてくれ」
「俺がおまえの『父親』なら、」
見上げてくるメローネを見下ろして、リゾットは肩をすくめる。
「こうゆう場面じゃあ手助けしない。そのかわり本当にヤバイ場面になったら、全力で助けてやる。世界中を敵に回してもな。そうゆうもんだろ、『父親』ってのは」