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暗殺者


 ネアポリス警察史上まれに見る怪奇事件をかかえていたアルベッロ警部補は、事件の真相を追う中でひとりの男の存在に行きついた。
 プロシュートと呼ばれるその男は、ネアポリスを中心にイタリア全土を股にかけるギャング組織パッショーネの構成員だった。ギャングの中にも、金やコネ欲しさに警察と結びついて情報を売る輩は存在する。今回の情報をリークしたギャングのひとりは、公衆便所脇でアルベッロにこうささやいた。やつの存在を追えばアンタまちがいなく死ぬぜ、やつらは鎖でつながれた飼い犬だがそこらの野良犬より凶暴で、クソより最低最悪の連中だからな…。
 アルベッロは、騒音をかき混ぜたナイトクラブのカウンターでウイスキーのグラスを傾けながら、渡された情報を頭の中で転がし吟味する。
 『やつら』という言葉から、プロシュートという男は組織の中のなんらかのチームに属しているのが知れた。そこについて詳しくは触れられなかったが、情報を売った男の口ぶりから、かなり特殊な、しかもどちらかというと毛嫌いされてる感じがあった。
 とくに気になったのは、『鎖でつながれた飼い犬』という言い回しだ。飼い犬というならギャングと呼ばれる連中は皆そうだ。組織の鉄の掟に縛られ、それを破ったなら、仲間といえど容赦ない制裁が加えられる。そうして引き裂かれた残虐な死体を、アルベッロはこのネアポリスの街中でいくつも目にしてきた。
 ただのギャング構成員とは、なにか一線を画す、特別な掟で縛られた、『クソより最低最悪の』存在。
 警察に務めて20年になるアルベッロの刑事としての勘が、この一件は深入りすると確実に命の危険があると警告している。わかっている、そんなもの刑事になりたての青臭い新入りのガキでもわかることだ。
 クラブのフロア奥のVIP席ゾーンから、間仕切りの重たいカーテンを押し開いて数人の男が出てきた。ミラーボールの青い照射が閃く暗闇の中、アルベッロはさり気なく視線をやる。
 イタリアンギャングらしく高級なブランドスーツを洒落て着崩した男たちの中で、あきらかにひとり、異彩を放つ者がいる。金髪碧眼の容姿がそうさせてるんじゃない、まとう空気がちがう。それは目の配り方や足の歩幅といった些細な仕草から生み出されるものだ。今、突然機関銃を乱射されたとして、誰が何人死のうと、この男だけは生き残るんだろう、そう思わせるたぐいのものだ。
 アルベッロは己の勘に従った。連中が店を出ていったのを見送り、遅れすぎず早すぎず、絶妙のタイミングでフラリと後を追う。
 うるさいネオンのひしめくネアポリスの夜。男たちはそれぞれ散り散りになって夜の石畳へ消えていくところだった。アルベッロは白髪混じりの短髪をひとかきして、何気なく歩きはじめる。
 狙うはただひとり。その他に用はない。アルベッロの歩く数十メートル先には、スーツに身を包んだ後ろ姿がある。プロシュートだ。根拠のない確信だった。だがアルベッロは、警察で20年鍛えられた己の嗅覚を疑わない。ちらほらと人通りのある街中の石畳を、アルベッロはただひとりの男だけ見つめて歩いた。
 プロシュートが角をまがった。この先は国鉄の駅がある。
 少し歩調をはやめて同じく角をまがったとたん、タクシーがアルベッロの今来た方向へ向けて走っていった。
(しまった!)
 逃げられた。後をつけていることはバレてるだろうと思っていたが、アルベッロは人の多い駅前で声をかけるつもりでいた。
 すぐにアルベッロは、すぐ目の前の道に寄せて停まっている車の窓を叩いた。警察手帳とバッヂを見せ、扉を開けさせる。
「な、なんだよォ、サツに厄介になるようなこたァしてねーぜ」
「あんたをどうこうしようってんじゃない、容疑者の追跡中だ!さっきのタクシーを追いかけてくれ!」
 運転席の男は恵まれた体格のわりに気の弱そうな声で、おびえた顔をみせた。これ以上手間取っていられないと、問答無用でアルベッロが後部座席に乗り込みかけた時、
「勝手に尾けてきたうえ容疑者扱いとは、ひでぇじゃねーか、なぁ?」
 背後から思いきり蹴りつけられ、転がったアルベッロの体を無理矢理車の中に押し込むようにして、ひとりの男が乗り込んできた。バン!と扉をしめ、「出せ」と運転席に一言命令するともう車は走り出している。一連の動作が、まるで完璧に計算されたシナリオのように微塵も無駄がなかった。
 アルベッロは凍りついたように目の前の男を凝視した。プロシュートが、スーツの襟をぞんざいに正しながらそこに座っている。
「兄貴ィ、そいつ知り合いですかい」
「いいや。だが俺に用があるみたいなんでな、話ぐらい聞いてやろうかと思ってよ。なぁオッサン?」
 少し狭そうに足を組んで、プロシュートが視線を投げてくる。初めて目が合った。瞳は冷えたブルーなのに、炎を灯したかのような強さと激しさが燃えていた。
 運転席の男は、最初のおびえた様子など嘘のように平然と車を飛ばしている。仲間だったのか。やられた。これはプロシュートの勘の良さと用意周到さが為せるわざだろう。
 アルベッロは、ゆっくりと、固まっていた手足をほぐすように後部座席に座り直して、そうしてハラをくくった。プロシュートと目を合わせたまま、慎重に口を開く。
「……ああ、そのとおりだ。俺はあんたに用があって、尾行していた」
 青い眼差しはアルベッロから外されない。静かな表情に、窓の外を走る車のテールランプの光が幾筋も流れる。本当にこの男は、アルベッロの話を聞くつもりらしい。ギャングの気まぐれか、わからないが、アルベッロは直感的にこの男は言葉の通じない馬鹿な輩じゃないとわかった。
「三週間前、中央駅近くで観光バスが信号機に突っ込む事故があった。知ってるか?」
「ああ」
「バスは大破、乗客含め信号待ちしていた通行人を巻き込んで十数人の死傷者がでた。事故の原因は単純なものだった、単純かつ複雑だった。運転手は『すでに死んでいた』。信号機に突っ込む前に、運転席でアクセルを踏んだまま。死因はなにか?これが最も厄介な問題だ。運転手は『老衰』で死んでいたんだ」
 プロシュートが片眉をあげた。「それがどうした?」とでも言うように。
「…あれはたしかに事故だった。運転手は他殺でも自殺でもない、老衰で死んだんだからな。運転手の過失致死、ということになる。だが運転手は28才の若者だった。28才だ。それが『老衰で死んだ』だと?馬鹿げてる」
「たしかに。真っ当な意見だ。それで?」
「あくまで死因は老衰だ、外傷もない、内臓に病気をかかえていたわけでもない、他殺ではありえない。単なる『奇妙な』事故として、捜査は打ち切られた。だが俺は調べつづけた。…そこで、あんたの名前が浮上した。パッショーネの構成員、プロシュート、だな?」
「それに俺が『ハイ』と言えば、あんたは死ぬしかなくなるぜ」
 プロシュートがまぶたを伏せスーツの懐に手を突っ込んだので、さすがにアルベッロも一瞬背筋が凍った。が、取り出されたのはシガレットケースだった。そこから一本くわえジッポを擦る様を眺めながら、アルベッロは無意識に息を吐いた。知らない間にかなり緊張していたらしく、肩や背骨がガチガチだ。
「じゃあ、勝手に呼ばさせてもらうが…プロシュート、俺が知りたいのはたったひとつだ。『どうやって運転手を老衰させたか?』それだけだ。なにか特別な薬を使ったのか、ガスか、…あるいは、精神的な強いショックを与えた、とか…」
「なぜあんたはそれを知りたがる?アルベッロ警部補?」
 プロシュートは煙草を挟んだ指で、いつのまにか落としていたらしいアルベッロ警察手帳を掲げてみせた。
 アルベッロはもう一度大きく息を吐いた。うかつにもほどがある。そして目の前の男の抜け目なさも、もはやさすがとしか言いようがない。
「ああ、リカルド・アルベッロだ。家族はいない。女房は死んじまった。だから俺は俺の身ひとつだ、殺る時も俺ひとりで済む、他の誰も殺る必要はない」
「あいにく人数は関係ねーよ。けどあんた、ずいぶんハラ決めてやがるじゃねぇか。自分が死ぬとしても、知りたいことなのか?自分の命と天秤にかけて?それほどまでして知りたいことが、『どうやって老衰したか』?」
「ああ…そうだ」
 アルベッロは直感した。おそらくあの事故を起こさせたのはプロシュートだ。人数は関係ない、その言葉から受ける印象が、事故の全容から見える大雑把さと重なった。あの事故は、運転手をのぞけば誰が死ぬとか何人死ぬとか、計算されたものではなかった。緻密な計画ではない、なにか突発的に、運転手を殺さなくてはならなくなり、偶発的にあの事故が起こった。そんな流れが、アルベッロには見えるのだ。
 プロシュートは煙草をくわえ、しばらく考えるように窓の外を流れる景色を見やっていたが、やがて紫煙を吐き出して運転席の方へ声を投げた。
「おい、車を止めろ」
「ええ?兄貴、ここ高速ですぜ?」
「見りゃあわかる。いいから止めろ。二度言わせんじゃねえ」
「へいィッ!!」
 弟分らしき運転席の男は、プロシュートの声が1オクターブ下がったのと同時に機嫌も急降下したのを悟って、返事とともに急ブレーキをかけた。何がなんだかわからないうちに、車を降りた弟分の男がアルベッロ側のドアを開けて、同時にプロシュートにシートから蹴り落とされた。
 高速道路のど真ん中、コンクリートに尻餅ついて顔を上げると、プロシュートが悠々とシートに座り直しているところだった。そしてまたあの強い眼差しが、アルベッロをとらえた。
「結論から言うと、あんたの知りたいことを俺が教えることはねぇし、仮に教えたところで無意味だ、どうしたってあんたにゃ理解不能だからな……だがあんた、ずいぶん勘が鋭いみたいだな。あんたの推理は、案外イイ線いってるかもしれないぜ。刑事にしとくには惜しいな。以上だ。質問は受け付けねえ。あんたは家に帰るために中央駅で個人タクシーに乗って、ボラれたあげく、ハイウェイで置き去りにされちまった。そうゆうことだ。じゃあな」
 バン!
 アルベッロの目の前でドアがしめられた。それっきり、もう車中のプロシュートと目が合うこともなかった。
 車が猛烈なスピードでハイウェイの光の嵐にまぎれこんでいくのを、呆然と見送っていたアルベッロだったが、周囲からのクラクションの音で現実に引き戻された。自分は高速道路のど真ん中に座り込んでいたのだ。世界一荒いと評判のネアポリスの車たちが、けたたましいクラクションを鳴らしながらアルベッロの横を通り過ぎていく。赤、黄、白のテールランプをなびかせて、夜のハイウェイは輝く。夢のような光景だった。




 その後アルベッロがプロシュートと会うことは二度となかった。だがアルベッロは知らないだろうが、アルベッロを殺したのはプロシュートだ。背後から頭と心臓に一発ずつ。銃殺されたアルベッロの死体は朝焼けの路地裏で発見された。
 ここからは蛇足になるが、アルベッロには血のつながらない娘がいた。彼は妻との間に子供を授からなかったが、孤児院で出会ったある少女とまるで本物の親子のように仲良くなり、仕事が非番の時には必ず施設に足を運ぶほどだった。
 少女は、生まれつきの難病におかされていた。人の10倍のスピードで老化する『早老症』。彼女は10才にしてすでに内臓のあちこちが傷んでいたし、杖なしでは立てないほど手足が細く、難聴にも悩まされていた。歯もぼろぼろで、見た目は小さなおばあさんだった。この病気のせいで、親にも捨てられたのだという。
 アルベッロは彼女を救いたかった。妻を亡くし、親類との縁もないアルベッロにとって、家族はすでに彼女ひとりだった。
 だからあのバス事故の捜査で、運転手が28才にして突如『老衰で』死んだという事実を知った時、アルベッロはどうしてもその謎を解き明かさなければならなかった。突然の老衰、それが薬やガスによるものかわからないが、原因がわかれば、もし人間をわずか数秒にして老人にする方法があるならば、逆に老化を止めたり、若返らせたりする方法も、あるのかもしれない。アルベッロにとって、最後の賭けだったのだ。
 ここまでが、組織の調べで判明した。そしてそういった事実に関わりなく、プロシュートは、「近ごろ我が組織と『能力者』についてしつこくかぎ回ってる男がいる、厄介なことになる前に始末しろ」と指令を受け、暗殺を遂行した。それだけのことだった。
 仮にあのハイウェイで、プロシュートがアルベッロから少女の話を聞いていたとしても、やはり結末は変わらなかっただろう。プロシュートは医者ではなく、組織の飼い犬であり、ただの暗殺者だからだ。

あとがき

客もまとめてヤッちまえ、墜落事故よりマシだろ大したこたァねェッ
てゆう兄貴の大雑把さと、
先っちょからケツまでやるってゆう徹底した感じが
兄貴の人柄を端的に表してる気がします
ほんと大雑把すぎるぜ兄貴
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