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究極の選択(御題) all


正々堂々と挑むか奇襲か

 ペッシは気づいていた。実は一時間前から気づいていた。ダイニングテーブルに座るメローネがクッションだと思ってケツに敷いてるのはペッシが買ってきたばかりのおニューのファーコートだ。
「プロシュート、今日は仕事?」
「一件入ってる」
「夜には終わる?」
「ペッシがさっさと片付ければな」
「ふうん……見たい映画があるんだけどさ、今日までなんだよな」
「内容は?」
「悪霊にとりつかれた女が恋人の男とその家族を惨殺して脳みそ食ったり焼いたり並べて鑑賞してみたりする系の」
「そりゃあいい映画だな。アカデミー賞もんだ」
 メローネの向かいに座っているプロシュートが、読んでた新聞をテーブルに放って目にも鮮やかに立ち上がった。あれは「仕事に行く」時の立ち上がり方だ。
「ペッシ!」
「はいッ!」
「出かけるぜ」
「へ、へいッ!」
 プロシュートが出かけると言ったら本当に5秒以内に出発する。ペッシはだからそれまでに準備をしておかなければならない。
 携帯は持った。仕事の場所の地図も頭に叩き込んでる。
 だけどあいにく、着ていこうと思っていたコートが、メローネのケツの下にある。いまだに。
「……なぁ、メローネ…」
「ペッシ、何してる!ちんたらやってんじゃねえッ!」
「兄貴が呼んでるぜ、はやく行けよ」
「ええッ!えーとえーと…!」
 ペッシの目の前にはメローネの下敷きになってるファーのコートがある。と同時に玄関から容赦なく浴びせかけられるお怒りの声。
 ペッシは一瞬にして決断を迫られた。
 コートか兄貴か。兄貴かコートか。
「…今行くよッ!兄貴ィ!」
 悩むほどの選択でもなかった。一目散に玄関に向かうペッシの背後から、いってらっしゃ〜いとメローネの呑気な声が聞こえてくる。
 ペッシは走りながら『ビーチ・ボーイ』を手に持った。後ろも振り向かず、竿を思いっきり振るう。
 次の瞬間、ガターン!と盛大に何かが床に倒れる音と「痛ェッ!!」という声が聞こえた。その頃にはすでに、釣り針に引っかかって手元に戻ってきたファーのコートを羽織って、ペッシはプロシュートに追いついた。
「何やってたんだオメー」
「なんでもねえですよ!じゃあ、いきましょうか!」
「ああ…いいコートじゃねえか、それ」
「へへっ」




勝利の女神か死神か

 目を開けたとたん、視界に入ったのは赤い坊主頭だ。
「……ああ、ここは地獄かよ、赤鬼ってやつが見えるぜ…」
「ご挨拶じゃねーか、ええ?」
 ホルマジオは笑いながらベッドサイドの灰皿で煙草を潰した。一応ケガ人を気遣ってくれてるらしい。
 ベッドに寝転がったまま、ギアッチョは天井を睨んだ。眼鏡をしてないせいでほとんど見えないが、まちがいなくアジトの天井だ。ちゃんと帰ってこれたらしい。
 起き上がろうとすると胸にとんでもない痛みが走った。
「イッ!……テェェえええ…」
「当たりめーだ、アバラ何本かイッてんぞ。まぁた無鉄砲な戦い方したんだろーがよォ」
「うるせぇ………めがね………」
「はいはい、おらよ」
 ギアッチョは腕を上げて受け取ろうとしたが、わざわざホルマジオが眼鏡をかけさせてくれた。俺はガキじゃあねーっつうの…。
 近距離的かつ直線的な戦闘を好むギアッチョは、時々仕事で骨折することがある。『ホワイトアルバム』は銃弾を防げても、衝撃までは防げない。ダンプカーに撥ねられたことだってあった。皮膚は傷つかずとも内蔵を傷めることが多い。
 痛い痛い思いをして、目をさます時はいつだって、死ぬも生きるも変わらねぇという虚しさと、死じまうのは嫌だという臆病さがある。
 目の前の景色は天国かそれとも地獄か。自分はどっちを望んでいるのか。
 ギアッチョにはまだわからない。
「こんな時間までおねんねとは、いい身分じゃねーか、ギアッチョ」
 次に目を覚ましたときには、一見女神のように微笑んだ、だがその両目にも笑う口元にもゾッとするほどの冷たさしかないメローネが、そばに立っていた。地面にぶっ倒れたギアッチョの、頭の側に立ち、反対向きから覗き込んできている。メローネの髪が、カーテンみたいに垂れ下がってる。
 ギアッチョはすぐさま何か言い返そうとしたが、口の中は血がいっぱい溜まっていて、むせた。また内蔵を傷めたらしい。折れた骨が肺にでも刺さったか。
「ダセェなぁ…かっこ悪いぜ、はやく立てよ」
「うるせえ黙れテメーさっさとひとりで行けッ!!」
 一気に言い放って、またむせる。口から血がこぼれた。
 眼鏡のレンズが無事だったおかげで、覗き込んでくるメローネの顔がよく見える。因果だ。こんな時に限って。よく見えたところで奴の顔に一発くれてやる拳も上げられないようじゃあ意味ねーじゃねえか。
 メローネは鼻で笑って、背筋を伸ばした。そうして視線をどこか遠くへやる。
「ひとを死神みてぇに追い払おうとしやがって。助けにきてやったってのになぁ。さながら勝利の女神ってやつ?もっと感謝してくれたっていいはずだろう」
 ギアッチョは地面にくたばったままメローネを見上げる。笑ってる口元は見えるが長い髪がなびいて表情までは見えない。この男は口で笑っていても目が死んでることがあるから、油断ならない。
 逆に口以上に目で語る奴もいる。
「あー…ダメだ…完全に死神が見えやがる……」
「『メタリカ』で止血してる。黙ってろ」
 起きたとたん黒ずくめの目まで真っ黒な男に小脇に抱えられて運搬されていた。男はまるで魂を刈る死神のごとき風体だ。なによりも血の臭い。ものすごく濃い血の臭い。
「それはおまえの臭いだ。ギアッチョ」
「ああ…?そうなのか…?」
「相変わらず無茶をしてるな」
「そんなこたねぇよ、俺はいつだってわきまえてんぜ…知らねーだろうけどな…どいつもこいつも俺のことを無鉄砲だの無茶くちゃだの、言いやがるが、俺はちゃあんとわかってやってるし、俺なんかよりもなァ、プロシュートの野郎とか、リゾット、テメーとか、おまえらの方が、危なっかしいんだよォ、俺なんかより…」
「わかったから黙れ。…いや、しゃべってろ。意識を失うなよ。ずっとしゃべってろ」
「なんだテメー、黙れっつったり、しゃべれっつったり、勝手なモンだな、死神ってのはよォ…」




実像か虚像か

 アジトに幽霊が出るという噂が立った。
「オメーだろイルーゾォ」
「なんでそうなる!」
 プロシュートの有無をいわせぬ決めつけに、イルーゾォは机に拳を叩きつけ果敢にも反旗をひるがえした。リビングのラグに寝転ぶメローネが嫌な笑いを浮かべながら目線を寄越してくる。
「こないだもそうだったしなァ、なんだっけ、ホルマジオが『鏡に髪の長い幽霊が!』とかゆって」
「マジで夜中に見るとビビるんだって。わかっててもよォ〜」
「確かにあの時は俺だったけど、今回は」
「オメーだろ」
「まちがいねぇな」
「おまえなのか。イルーゾォ」
「話を聞けこのギャングども!」
 リゾットにさえ疑惑の目を向けられて、イルーゾォはもはやここに俺の味方はいないと天を仰いだ。
「オメーじゃねぇとしたらよォ、誰だっつーんだ?」
「知らねーよ。なんで俺がうちのチームのオカルト担当みたいなことになってるんだ」
「そりゃあおまえの見た目がさぁ…」
「アレだろ、アレ、アダムスファミリーの」
「ウェンズデー!!」
 こんな時ばかり気の合うメローネとギアッチョが指を差して爆笑している。イルーゾォは向けられた二人の指を逆方向に折ってやりたくなった。
「どっちにしろ幽霊の正体がわかんねーと、おちおち寝てらんねーぜ」
「今回の目撃者は?」
 ホルマジオのやや情けない言葉を受けて、プロシュートが全員の顔を見回す。こうゆう時の進行役はたいていプロシュートで、リゾットは議長だ。あとは互いの罪を暴き合う裁判員たち。
「言い出しっぺはペッシだ」
「オメーかペッシ」
「はい、俺です」
 素直に手を挙げるペッシに、全員の視線が集中する。
「何を見たんだ?ペッシ」
「俺が見たのは、髪のながーい…」
「イルーゾォ」
「だからちがうって!」
「逆に聞くけど、おまえじゃないって証拠はあるか?」
「なんで俺を犯人に仕立てたがるんだよ」
「さっさと解決してぇからに決まってんだろーがッ!さぁ吐けッ、吐いちまえ!」
 ギアッチョに迫られイルーゾォは藁にもすがる思いでリゾットを見た。リゾットは少し宙を見上げ(考え事をしている)、視線をギアッチョに向けた。
「おまえが見たのはどんな感じだ?ギアッチョ」
「あー?俺?俺はよぉ、こう、朝方にここ戻ってきたら、まだ薄暗かったんだけど、廊下をフーッと人影が横切って……」
「みろ!みんな聞いたか!ぜんぜんペッシの証言とはちがってるぜ!」
「たしかに人影ってだけじゃあ断定できねぇな」
「目撃者がギアッチョとペッシってのが引っかかる。ギアッチョは見ての通りメガネ小僧だし、ペッシはペッシだし」
「ひ、ひでーや!」
「おいおいおいてめーメローネ、どうゆう意味だそりゃあぁ〜?ああ?俺が見間違いでもしたって言うのか?」
「ホルマジオ知ってるか?ギアッチョってメガネ外したら、ピアノに座ったとき譜面台にのっけた譜面が見えねーんだぜ?」
「つぅーか俺はなんでそんな状況になったかの方が気になるがなァ〜」
「メローネとイルーゾォ、おめーら黙ってろ。話が進まねえ」
 横暴だ!権利を主張する!と声をあげる二人を無視して、プロシュートはペッシとギアッチョにまとめて目をやった。
「要するにおめーらだけだと証言が少なすぎる。物的証拠も状況証拠も不十分だ。そんなんじゃいつまでたっても事件の真相を手にすることはできねぇぜ」
「兄貴、俺の話最後まで聞いてねぇですよね…」
「じゃあどうするっつーんだよ、このままみすみす真犯人逃していいってのかぁ?地の果てまで犯人追っていってこそ、真実が掴めるんじゃあねーのか!?」
「そもそもよぉ、そうゆう話だったか?俺ら追いかけるもん間違えてねーかなんか」


special thanks. MasQueRade. title from

atogaki

書きかけの話が尋常じゃなく長くなっていて終わりが見えないあまり短編に手をつけたというわけだ
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