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珍客乱入 r.p.ps


 ペッシには幼い弟妹が6人いて、家が貧しかったから、10歳になる頃には奉公にだされた。金持ちの屋敷の下働きだ。あとから知ったが、実際には奉公というより奴隷契約だった。両親はペッシを金で売った。
 その家の主人は古くからの貴族の末裔で、作法に厳しく、また身分差にも厳格だった。少しでも仕事を怠ったり、聞いたことにすぐ答えられないと、容赦なく鞭でぶたれた。ペッシは生来どんくさいところがあって、しょっちゅう主人からも使用人頭からもぶたれていたから、いつもびくびくしていた。何年もの間、厨房の薄ぐらいすみっこで、屋敷の者たちが食べ残したシチューをなめる日々がつづいた。


 リゾットにとってそれは非常にめずらしい任務で、なぜならリゾットはその能力上、単独行動がいちばん適していたし、これまで与えられた仕事もほとんどリゾット一人でこなしてきた。
 しかし上司から命令されたのでは逆らいようもない。『何故』と聞いてもいけない。リゾットの属するチームのリーダーである男は、無為な質問をされるのをひどく嫌う。
 ミラノ郊外にあるターゲットの館に着いたのは昼を少しまわったぐらいだった。
「下調べを済ませちまってから昼飯にしようぜ。街道沿いにトラットリアがあった」
 言ってこっちの返事を待つそぶりもなく、プロシュートは車のドアを開けて歩いていってしまった。せっかちな奴だ。チームの在籍年数でいえばリゾットの方が長いが、地位でいえばリゾットとプロシュートは同格だ。万が一の時はリゾットの命令に従うべきだが、プロシュートははちゃめちゃに勘のいいところがあって、万が一の時の判断を誤らない。
 リゾットは林の中に車を停め、そのまま景色と同化した。


 プロシュートがリゾットと初めて会ったのは今から一年前、変なフードをかぶってると思ってたら、変なネックレスをしてると言われた。思わず胸ぐらを掴みあげたら盛大に剃刀を吐き出させられた。
 パッショーネで、こんなに躊躇なくスタンド能力を使ってみせる奴は初めてだったので、むしろそれに驚いた。普通は能力は隠す。同じ組織の者だろうと。リゾットによると、彼の能力の重要な部分は、剃刀やはさみを造りだせるというところじゃないから、ためらいはないらしい。
 実際メタリカがもっとも優れているのは、吸い寄せた鉄分によって景色にとけ込めるところだ。姿を消せるうえ、鉄分から凶器を生み出せるとなると、これほど暗殺に向いた能力もあるまい。偵察としてもじゅうぶんだ。
「3日以内にモレロを殺る」
 湯気のたつパスタをフォークでかき混ぜながらリゾットが言った。
 プロシュートはちぎったパンを口に放り込んだばかりだったので、噛みきる間、しばらく向かいに座るリゾットを観察した。なにが変わったというわけでもなく、いつもどおりのリゾットだ。パスタを具材ともどもグッチャグチャにかき混ぜて食べるリゾットだ。
「上からの命令か?」
「幹部からのな」
「おめーがやんのか」
「補佐をたのむ」
「補佐だと?」
 ハッとプロシュートは鼻で笑う。
「万一の時はおまえにチームをまかせる」
「そりゃあ光栄だ。せいぜい生き残れよ。リーダーならあんたのが向いてる」
 リゾットが手を止めてこちらを見てきたので、プロシュートは片眉をあげた。本心を言ったまでだが。なんでそんな顔をする。
「おまえは面倒見がいいし、人を率いる力もある」
「俺みたいな口うるせぇのがリーダーになったら部下がかわいそうだろ」
「そこは自覚あるのか」
「うるせぇな。万一の事なら他をあたれ。ホルマジオとか」
「たしかにあいつは能力のわりに器がでかいな」
「そーだろそーだろ」
「だがおまえは年のわりに老獪してるからそこが向いてる」
「おめーよぉ、モレロ殺ってリーダーになんのが嫌なのか?嫌じゃねえのか?ハッキリしろ」
 今のプロシュートらのチームのリーダーであるモレロは黒い噂の絶えない男だ。組織の外にも内にも敵が多い。いつか殺す時がくるだろうと思っていたが、リゾットがその命令を受けたのなら、組織は次のリーダーにリゾットを選んだということだ。
 街道のトラットリアを出ると、夜の11持をまわっていた。徒歩でターゲットの屋敷に向かう。
 昼間に下調べは済ましてるので、庭園にはなんなく入り込めた。今回は暗殺の前に裏づけをとらなければならない。めんどうだがそれが仕事だ。


 厨房の勝手口を出たところに納屋がある。ペッシはその壁にもたれかかってチーズのかけらを噛んでいた。石みたいに堅いが、うまい。それに食べ物は堅い方が腹もちがいいってことを、ペッシは幼い頃からの経験で知っていた。
 必死に味わおうとおもって何度も何度も噛んでるうちに、チーズは口の中でなくなってしまった。さびしくなって、空を仰いだ。今日は夜空が曇っていて肌寒い。無性に家や母親が恋しくなった。
 使用人が寝泊まりしている屋敷の離れに戻ると、廊下に人が倒れているのが見えた。暗くてよくわからないが、ペッシと同じ年頃の掃除夫の少年らしい。
「おい、どうしたんだよ…こんなところで寝てちゃあ、親方にしかられるぜ…」
 近寄って小さく声をかけても、ぴくりともしない。でもこのまま放っておいたら、こいつはまちがいなく罰を受けるし、見逃したペッシも鞭で叩かれる。
 ペッシは仕方なく少年の肩をつかんだ。
「おいってば…」
 強引に仰向かせたとたん、ペッシは悲鳴をあげかけた。シワだらけの老人だった。歯が抜け落ちて床に転がっている。
(誰だコイツ…!?)
 見覚えのない奴だった。でもよく見たら、見覚えのある掃除夫だ。でもそんなはずはない、掃除夫はペッシと同じ年頃なのだ。目の前にいるのは死にかけのジジイにしか見えない。
 その頃になってようやくペッシは、まわりの雰囲気が異様なことに気付いた。ふだんから自覚していることだがペッシは勘がにぶく、物事の察しが悪い。だが人の感情には敏感だから、余計にびくびくしてしまって、相手を苛つかせる。
 ペッシがもっと物事に注意深ければ、屋敷に入る前に玄関の花壇がすべて枯れきっているのにも気付いただろうし、庭で放し飼いされている番犬たちが一吠えもせず干からびてるのにも気付いただろう。
 だがペッシは目の前のことで頭がいっぱいだった。何事かわからないが、とにかくペッシの前で老人は死にかけている。
「助けを呼ばなくちゃ…」
 老人から手を離して立ち上がろうとしたとたん、膝がかくんと崩れた。ハッとして足元を見下ろす。二十歳に満たないペッシの両足が、しおれて骨と皮だけになっている。
「なっ…なんだよこれェッ!?」
 駆け出そうとして力が入らず思いきり転がった。恐怖感がものすごい勢いでペッシに覆いかぶさってきた。床についた手も、もう見慣れた自分の手じゃない、死に際のジジイの手だ。全身が震える。
「イヤだ…死にたくないッ!!」
 ペッシは右手を宙に突き出した。


 屋敷の中庭で栽培されていたのはまぎれもなく大麻だった。すべて枯らして始末した。貴族の末裔といえどこんな時代になると暮らしていくのに金はいるらしい。チンケな大麻を村人に売りさばいて小銭稼いでたせいでギャングに殺されるんだから、なんともつまらない人生だ。
 屋敷の主人の部屋に入ると、ベッドが一面真っ赤だった。血の海に沈むようにして、男の死体が倒れている。メタリカのせいで金具を飛ばされたらしく、重いカーテンがすべて垂れ落ちて、大きな窓から暗い夜空が見えた。
「こっちは片付いた」
 部屋の中央にいたリゾットに声をかけると、黒ずくめの男は少しプロシュートの方を振り向いてうなずいた。すべては滞りなく完了した。
 発動しっぱなしだったグレイトフルデッドを解除しかけた時、ふとプロシュートの頭の隅で苦いなにかが横切った。スタンドを引っ込めないプロシュートに、リゾットが勘付く。
「どうした?」
「悪い予感だ」
 理由も理屈もへったくれもないそれを、リゾットは無条件に鵜呑みした。とたんにリゾットの体が背景と同化し始める。メタリカを発動させたのだ。しかし同化しきるかしきらないかのところで、リゾットの体が突然グンッと持ち上がった。
「リゾット!!」
 プロシュートの声が響くと同時、リゾットの体はカーテンのない窓に直撃し、ガラスを叩き割って外に放り出された。プロシュートはグレイトフルデッドをすぐ間近に出現させ、窓に駆け寄る。下を見下ろすが、地面には砕け散ったガラスが芝生に刺さってるのみだ。
 ちがう、思い出せ。さっきリゾットの体は、たしかに宙に『持ち上がった』。落ちたんじゃない。まるで何かに『釣り上げられた』かのような動きだった。
 プロシュートは真正面を見た。
 中庭をはさんで、離れの建物がある。


 床に激突した感覚があって、全身を打つ痛みに意識が遠のくどころかより鋭敏になるのを感じた。その次の瞬間には、反射的にメタリカを発動している。リゾットの体のまわりに、無数の針が浮かんだ。それを手当たりしだいに飛ばす。
「うわぁぁぁッ!!??」
 すぐ近くで子供が悲鳴をあげるのを聞く。起き上がってすばやく周囲に目を配ると、薄暗い廊下には、幼い声のわりに体つきはすでに立派な、少年がひとり腰を抜かして座り込んでいた。
(こいつが?)
 リゾットは数歩さがって距離をとった。かまえたまま少年を鋭く見下ろす。
「す、す、すいません、俺、誰かひとを呼ぼうと、おもって、あの、俺、体がなんかおかしくって、いきなり、手足がジーサンみたいになったから、それで……」
 少年の瞳は恐怖に見開かれ、リゾットを映していた。体の異変というのはグレイトフルデッドのせいだろうが、すでに少年の体は元通りに戻っている。それさえ気付かないぐらい、動転しているらしい。演技ではない。
「おまえが…やったのか。何をした?どうやって俺をここに引きずり寄せた」
「わかんないよ!」
 とたんに、少年の頬を突き破って鉄の刃が飛び出した。少年が絶叫をあげる。
「質問に答えろ。おまえが、俺をここに連れてきたんだな」
「はい、はい、そうです、い、いたい…」
「どうやってだ。おまえは何をした?」
「俺にもわかんないよ!わからないけど、時々、釣り竿みたいなのが現れるんだ…それはなぜか他の人には見えなくて、先っちょについた釣り針で、なんだって釣れるんだ…俺はよく、厨房の冷蔵庫からチーズを盗んでたんだけど…壁でもなんでも、通り抜けるんだ…」
 『ビーチボーイ』って呼んでる、と少年はつぶやいた。刃の突き出した頬を両手でおさえながら、小刻みに体を震わしている。
「『能力者』か」
 廊下の反対側からプロシュートが現れた。その後ろを這う人型のものが無数の目をぎょろりと動かすのを見て、少年は再び悲鳴をあげた。
「これが見えてんのか。まちがいねぇな。おい、スタンドを出してみろ」
 少年がなおも狂ったように叫びつづけるので、プロシュートは舌打ちひとつ、拳で少年の頬を張り倒した。蹴りじゃないだけまだマシだが、ぶっ飛んだ少年はさっきメタリカで食らった傷から再び血を垂れ流した。
 歩み寄ったプロシュートが、少年の襟をつかんで有無をいわさず顔を上げさせる。そうして鼻先が触れあうほどに顔を近付け、鋭く澄んだ両の目をまっすぐ少年にそそいだ。
「オイ、俺を見ろ。目をそらすな。…そうだ。俺の言ってることがわかるな?」
 視線をプロシュートに縫いつかせ、少年は無心にうなずく。こういうところが面倒見がいいとリゾットは思うが、ホルマジオなんかは面倒見いいっつーか得意のガンタレじゃねーかと笑う。
「おめーは俺の横にいるモンが見えてるな?これは俺の『スタンド』だ。そっちの男も、同じようなモンをもってる。見てくれは全然ちがうがな…おまえのはどんなだ?『ビーチボーイ』つったか?出して見せてくれねえか」
 うん…と小さくうなずいて、少年は自分の両手を見下ろした。まだ細かく震えつづける両の指に、それは現れた。髑髏の形をしたリールに、釣り竿に似た『スタンド』。
「…リゾット」
「………」
 プロシュートの視線を受け、リゾットは腕を組んで思案した。思案するもなにも、選択肢は二つしかない。殺すか、『仲間』にするか。そのどちらかだ。

あとがき

リゾットは食い物をこう、ぜんぶグッチャグチャに混ぜて食うのが好き
ドリアとかもこう、グッチャグチャにする
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