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西風の見たもの2 all パロ


※全員が貴族の兄弟パロディの続き. 前作はココ





 目の前に現れたそれをリゾットはプロシュート2号と名付けた。
 いや、見た目はまったく似ていないが。なんとなく10歳ぐらいの頃のプロシュートを思い出させるのだ。動きが。
「俺はよォ~~べつにかーちゃんが死んだからって、あんたらに引き取ってもらわなくても、ひとりでだって生きていけたんだ、むしろそっちのが望ましかったぜ、いまさら家族だとか兄弟だとか、そんなもんよォ、いらねーからな。じゃあなんでここまで大人しくついてきたかって、まぁなんつーか、そう、成り行きだよ成り行き。あとこんなヤクザ丸だしの野郎が送り込まれてきたら、とりあえずは言うこと聞いておくかって、善良な市民なら思うはずだぜ」
「オイオイオイだぁ~れがヤクザ丸だしだって?ええ?オメー来るまでに俺が話したこともう忘れたのか?パティシエだっつってんだろーがよォ~」
 ホルマジオがくるくる巻き毛の後頭部をはたく。すると光速で巻き毛の少年が回し蹴りを返した。
 そういう手癖の悪さもやっぱりプロシュートに似てる。さすが2号。
「……それで、」
 腕組みしてリゾットが声をだすと、少年もホルマジオもぴたっと動きを止めた。空気は読めるらしい。
「スクールは通ってなかったのか。少年」
「少年じゃねえ、俺にはギアッチョという立派な名前がだな」
「じゃあ初対面の人と会ったときは自分からきちんと明確に名乗れ。スクールにも通わずまともな社会性も持ち合わせてない馬鹿と判断されてもしかたないぞ」
「………」
「正~論だな」
 ギアッチョの心の声をホルマジオが代弁した。返す言葉のないギアッチョは舌打ちを鳴らすのみだ。
「…名前はギアッチョだよッ!G-h-i-a-c-c-i-o。2年前まではスクール行ってた、役所の補助でな。自分の名前は書ける」
「人に言えない悪癖はあるか?」
「ハァ~?なんだよそれ」
「これから同じ住居に住む奴が、猫の死体を集めるクセとか持ってたりしたら厄介だろう。事前に知っておきたい」
「事前に知ってどうにかなるのかよそれはッ!あとな、俺はさっきも言ったがよぉ、別に来たくてここに来たわけじゃあねーんだ!そんなに嫌々なら、こんなごたいそうなお屋敷に住まわせていただかなくても結構だぜ!」
「俺はおまえを引き取る義務がある。血縁者だからな。戸籍上の縁者が存在するのにストリートチルドレンになんかなって役所に保護されることになったら、結局俺たちがおまえを養育するよう役所に言いつけられる。なら最初から引き取ったほうが早い。どうしたっておまえの存在は俺たちに迷惑をかけることになるんだから、面倒な抵抗してないで世話になっておけ」
「帰る!!!」
 すばやく回れ右して走り出そうとしたギアッチョの首根っこを、ホルマジオがつかんで止めた。猫の子のようにギアッチョは足をバタつかせる。
「まぁまぁ待て待て。リゾットの言うとおりだ。おとなしく世話になっとけって」
「イヤだね!いっしょに暮らす人間を選ぶ権利ぐらい俺にだってあるぜ!」
「ん~オメーの言いたいことはわかるがよォ、父親も母親もいねえおまえがこの先どうしたって一人で生きていけるもんじゃねぇことも、わかってんだろ?だいたい帰るってオメー、どこに帰るっつーんだ?オメーの帰る家はねえんだよ。ここしかな」
「ギアッチョ」
 ホルマジオにつかまえられてるギアッチョの正面に、リゾットは回り込んだ。
 ギアッチョはメガネの奥からリゾットを睨みつける。
「俺は今まで3人の『兄弟』をこの館に迎え入れてきた。そのうちの2人は今はいねえがな…元からこの館に住んでた奴らも全員等しく、俺にとっちゃ『兄弟』だ。俺らは母親は別だが、たしかにこの館のあるじだった男の血を引いてる。それだけでおまえは、ここに住む権利がある。俺はここに住む権利のある奴を拒否しない。歓迎もしないが、俺はおまえを受け入れる用意がある。どうする」
「…………ケッ」
 どうするもクソも、と毒づきながらギアッチョは目をそらした。




 乱暴に開いた扉は乱暴に閉められた。イルーゾォの部屋の扉をこんな風に扱うのは一人しかいない。
「イルーゾォ?いるんだろ?」
「いるよ。扉を乱暴に扱うな」
「夕食会は全員強制参加だぜ。ひさびさにホルマジオのやつも帰ってきてる」
 相変わらずメローネは人の話を聞いていない。イルーゾォは深く座り込んでいたソファから立ち上がって、読みかけの本をベッドに放った。
 イルーゾォがいるのは、廊下につながる部屋よりさらに奥まった書斎のようなところだ。誰にも邪魔されず時間を過ごすにはここが一番いい。屋敷のなかの騒音も、ここまでは届かない。
 廊下側の部屋からメローネがひょっこり顔だけのぞかせた。
「例の新しい『兄弟』、さっき玄関で見かけたけど、すっげえ髪型」
「髪型はおまえだって変だろ」
「くりんくりんの巻き毛。それにメガネ」
 両手でメガネのような形を作る。メローネが妙にご機嫌だ。イルーゾォは悪い予感しかしなかった。
「また新入りで遊ぶ気だろ、メローネ」
「言葉が不適切だな、イルーゾォ。かまってやってるんだよ」
 かつてペッシが初めてこの屋敷にやってきた日も、メローネはこの調子だった。
 ペッシは一週間、メローネからの『集中砲火』を受け、なんとか耐え抜いた。そうして結果的になぜかプロシュートがペッシの保護者になっていた。
「まさかプロシュートがペッシをかばうなんて思わなかったからなぁ、今回はどうろう。プロシュートはやっぱりかばうと思う?自分と母親のちがう『弟』を」
「おまえ、バラバラにしたいのか。俺たちを」
 リゾットが守りたがってる『兄弟』を。
 メローネは、イルーゾォを横目に見て、灰色に緑のまじった瞳を細めてみせた。マスク越しにもその笑みは不穏なものだった。
 イルーゾォは、自分の片割れであるはずのこの男のことが、なにひとつ理解できない。




 テラスから見える空はすでに夕暮れの赤色を失い濃い紺へと変色しつつある。
 殴られた痕みたいだ。プロシュートは自分の思考の阿呆さ加減にテンションが下がった。座ってるベンチの横あたりを手探り、メローネが置いていった煙草ケースをつかむ。
 新しいのを一本くわえ、マッチを擦った。メローネには自ら禁煙宣言したが、今から兄弟全員そろっての夕食会に出なければならないことを思うと、一本ぐらい吸っておかなければやってられない。できれば夕食時にも煙草を持ち込みたいが、それをしたらまた懲罰房に逆戻りだ。
「あ、兄貴ィ、リゾットが、」
「わかってる」
 背後からガサガサと草をかき分ける音をたてながらペッシが現れる。
 ペッシはあまりこの庭園が好きじゃなかったはずだ。たくさん薔薇が咲き乱れてるから、トゲに引っかかるし、居心地が悪いらしい。なのにわざわざやって来たのは、リゾットからプロシュートを呼んでくるよう言付かったからで、プロシュートのためを思ってだろう。
 プロシュートもそれがわかったから、煙草をくわえたまま振り向いて、ペッシに笑いかけてみた。ペッシが、あきらかに安堵した表情をみせる。この屋敷に連れてこられたばかりの頃によく見せた顔だった。
「兄貴、元気そうでよかった。今回は懲罰が長かったから、オレ心配したんですぜ」
「ああ、悪かったな、ペッシ。俺がいない間、メローネやリゾットの野郎にイジメられなかったか?」
「それが聞いてくだせぇよ、メローネがまた俺を庭の池に突き落として…」
「このマンモーニがッ!!!」
 握りつぶした煙草ケースを全力で投げつけると、ペッシはヒィィッと声をあげて尻餅をついた。ソフトケースといえどプロシュートが投げたらメジャーリーグの危険球だ。
「何回言わすんだオメー自分の身は自分で守れッ!やられたら数倍にしてやり返せッ!じゃなきゃあテメーは一生ここで飼われるんだぜわかってんのかァ!?」
「ヒィッ!怒らないでくれよォ兄貴ィッ!!」
 ペッシは半ベソかきながら頭を抱えてうずくまっている。まるで戦場で降り注ぐ焼夷弾に脅える下等兵だ。
 プロシュートはフンと鼻を鳴らし、ペッシにこっち来いと手招きする。
 ビクビクと及び腰で近づくペッシの首に腕をまわし、グイッと引き寄せ、おでこをコツンと突き合わせた。
「いいか?オメーはちゃんと反撃する力をもってんだ。力をもたねぇ弱虫なんかじゃねえんだ。胸をはれ。反撃しろ。オメーにはその力も権利もある」
「で、でも兄貴ッ、相手はメローネだぜ…正当な血筋の人らに、手なんかあげちゃあマズイよ…」
「ハッ!正当な血筋?関係あるか。こっから出りゃあな、ペッシ、血筋がどうとか、そんなのなんの足しにもなんねーんだ。テメーの手とテメーの力で、道を切り開いてくしかなくなるんだぜ。わかるか?血筋や家柄なんてもんに頼ってるやつは、いつまでたっても自立できねぇマンモーニだ。オメーはそんなくだらねー男になるんじゃねえ。いいな?ペッシ」
「う、うん、わかったよ、兄貴…」
 ペッシがうなずいたのにうなずき返して、プロシュートはペッシを解放してやった。
 こういった教えは、ペッシがこの屋敷に連れて来られて、ビクビクと震えながらプロシュートの元に挨拶に来た時から、毎日のように叩き込んできたことだ。
 そう、文字通り叩き込んできた。時に殴り時に蹴り、時に励ましてやりながら。
 本妻の子じゃないが元からこの屋敷に住んでいたプロシュートやホルマジオとちがって、ペッシは外から連れて来られ、リゾットに教育された。だから普通以上に、リゾットたち『正当な血筋』の者と、自分たち『正当じゃない血筋』の者の区別がはっきりしていた。ペッシは常に『正当な血筋』の者たちを恐れていた。
 そんなんじゃあダメだ。プロシュートは自然とペッシをきたえるようになった。
 ペッシは今はこの屋敷にいても、いずれ出て行かなければならない。その時にはもう、『家』や『兄弟』には頼らず、一人で生きていけるようになってなければならないのだ。きたえてやる必要があった。さいわいペッシには素地がある。
「ったく、今日からまた新しく『兄弟』が増えるってのに、オメーがそんなんで大丈夫か?メローネの話じゃオメーより年上らしいが、末っ子だからっていつまでも兄貴たちにイジメられてんじゃあねーぜ…」
「あ、そうだ、その新しい『兄弟』が来るから、もう夕食にいかなきゃ、兄貴」
「ああ…」
 すっかり忘れていた。この一本吸い終わるまで待てと告げて、プロシュートは煙を吐いた。
 ペッシが『兄貴』と呼ぶのはプロシュートだけだ。
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